抜けられない独占欲
「ちょっと待ってくださいアルヴィン様! 完全に部屋ごと世界から孤立しちゃってますよ!?」
ルチアは慌ててベッドから起き上がろうとしたが、腰をがっちり抱え込むアルヴィンの腕はぴくりとも動かない。それどころか、アルヴィンは薄っすらとアメジストの瞳を開くと、心底満足そうな微笑みを浮かべた。
「いいじゃないか。外の喧騒も、陛下の急な呼び出しも、国境からの面倒な報告書も……ここには一切届かない。君と私と、この冷たくて心地よい風だけの世界だ」
「よくありません! 私たちの朝食はどうなるんですか! それに、マイルズ様たちが青ざめて部屋の前で倒れちゃいます!」
「大丈夫さ。マイルズなら『あー、また閣下のバカげた独占欲結界が発動したな』と察して、勝手に書類を扉の前に積んでおくだけだよ」
アルヴィンはルチアの抗議などどこ風吹く風で、彼女の細い腕を引っ張り、再び自分の胸の中へと引き戻した。
はだけたシャツの隙間から覗く魔力の冷たさと、体温の熱さが交差して、ルチアの心拍数が跳ね上がる。
ピッ。
エアコンのセンサーがルチアの動揺と高鳴る鼓動を即座に感知し、室内の温度をさらに「すこしひんやり」と、けれど二人の体温が一番気持ちよく引き立ち合う理想の数値へと微調整した。
「あっ……風が……っ」
「ほらごらん。君の作ったエアコンも『もっと私に甘えなさい』と言っている」
「私、そんな機能乗せてません……っ!」
ルチアが赤くなって反論しようとすると、アルヴィンはそのままルチアの頬を両手で優しく包み込み、ゆっくりと深くて甘い口づけを落とした。
部屋を覆う青白い『絶対障壁』の結界が、二人の甘い息遣いとエアコンの微かな駆動音だけを静かに閉じ込めていく。
足元では、シロちゃんが「きゅふぅ……」と幸せそうな寝息を立て、二人の冷感クッションとして完全に丸くなっていた。
異世界の技術で国家の命運を救った天才エンジニアのルチアだったが――
どうやら自分が生み出した「最高品質のエアコン」と「公爵様の留まるところを知らない独占欲」の組み合わせからは、当分逃げ出せそうにないのだった。




