容赦なきブラッシング
「……なるほど。その毛並みに魔力を蓄えて冷気を放っているのなら、毛並みを『完璧に整えすぎる』ことで、魔力の放射効率を狂わせ、ただの温かい獣に戻してあげよう」
「アルヴィン様、目が本気すぎて怖いです……っ!」
ベッドの上でルチアを抱きしめたまま、アルヴィンは恐ろしいほど端正な顔で、どこからか取り出した公爵家特製の「最高級魔獣用ブラシ」をチャキリと構えた。
「きゅっ!?」
シロちゃんは本能的に、マイルズの時以上の危機を感じてルチアの首元から逃げ出そうとしたが、すでに遅い。アルヴィンの長くて綺麗な指先が、シロちゃんの首根っこを「ひょい」と容赦なくつまみ上げた。
「さあ、大人しくしなさい。君のその極上の毛並み、私が直々に毟り(むしり)……いや、整えてあげるからね」
「きゅ、きゅぃぃーーっ!」
アルヴィンはシロちゃんを自分の膝の上にガシッと固定すると、最高級ブラシを当てて、容赦ない速度とプロの手つきでブラッシングを開始した。
シュッ、シュッ、シュッ……!
「おや、意外と毛が抜けるね。ルチアの首元を汚した罪は重いぞ」
「アルヴィン様、優しく! 優しくしてあげてくださいっ!」
ルチアが慌てて止めようとするが、アルヴィンの指先から微かに放たれる最適な魔力コントロールにより、ブラシはシロちゃんの毛並みの奥深くまで完璧に捉えていた。
すると、最初は恐怖でパタパタしていたシロちゃんだったが――。
「……きゅ? ……きゅふぅぅうう~~ん……❤」
アルヴィン様の、無駄に完璧すぎる力加減とツボを押さえた極上ブラッシングの快感に抗えなかったらしく、シロちゃんは一瞬で骨抜きになってしまった。短い手足をだらんと投げ出し、アルヴィンの膝の上で完全に液体化している。
さらにアルヴィンの狙い通り、ブラッシングによって毛の間に溜まっていた氷の魔力が余すことなく空気中へと放出され、シロちゃんの身体は本来の「ただのあったかくて柔らかいもふもふ」へと戻っていった。
「よし、ただの温かいイタチになったね。ルチア、これでこの獣は『冷感枕』としての役目を果たせなくなった。……さあ、私の腕に戻ってきなさい」
アルヴィンは、完全に昇天してフニャフニャになったシロちゃんをソファへとポイッと(優しく)戻すと、すかさずルチアをベッドのシーツへと押し倒した。
「あ、アルヴィン様……シロちゃん、完全に懐いちゃってませんか……?」
ソファの上で、シロちゃんはアルヴィンの方を向いて「きゅふ、きゅふぅ……(またやって、と言いたげに尻尾を振る)」と寝言を言っている。
「気のせいさ。……それよりルチア、ようやく邪魔者が全員消えた。エアコンの『抱擁モード』も、君のこの高鳴る心拍数を検知して、一番心地よい風を送ってくれている。……今度こそ、誰にも邪魔させないよ?」
アルヴィンはルチアの両手を自分の大きな手で包み込み、アメジストの瞳にとろけるような独占欲を湛えて微笑んだ。
部屋の中はルチアの作ったエアコンのおかげでどこまでも涼しいのに、アルヴィン様に深く唇を塞がれたルチアの身体は、初夏の太陽よりも熱く、甘く蕩かされていくのだった。




