もふもふの冷感枕
「きゅふぅ……」
翌朝、新機能『抱擁モード』の完璧な温度管理によって、ルチアは極上の目覚めを迎えていた。
エアコンの風は心地よく、背後からはいつも通りアルヴィン様のひんやりとした逞しい腕が、ルチアの腰をがっちりとホールドしている。
(ああ、今日も涼しくて幸せ……。……って、あれ?)
ルチアは、自分の頭の下に、いつもとは違う「何か」の感触があることに気づいた。
アルヴィンの腕枕とは別に、ルチアの首筋から頬にかけて、驚くほど滑らかで、まるでシルクのようにもふもふとした、そして信じられないほど『ひんやりと冷たい塊』がぴったりと密着しているのだ。
「きゅ~う❤」
「えっ、シロちゃん!?」
ルチアが薄目を開けると、なんとシロちゃんがルチアの首元に器用に丸くなって収まり、自らを「ネックピロー(首枕)」のように変形させていた。
シロちゃんの真っ白な毛並みからは、エアコンの風とはまた違う、まるで天然の氷穴から吹き出すような、優しくて澄んだ冷気がじんわりと放たれている。
「わぁ……冷たくて、もふもふで、最高に気持ちいい……!」
ルチアがうっとりとして、シロちゃんの冷たいお腹に顔を埋めてすりすりしていると――当然、背後の「人間エアコン」が黙っているはずがなかった。
ピキッ……。
「……ルチア。朝一番に私以外のものに顔を埋めて、随分と幸せそうな声を出すじゃないか」
地を這うような低い声とともに、ルチアの腰を抱く腕にグッと力がこもる。
アルヴィン様が、完全に目が据わった「黒ハラ」モードで背後から睨みつけていた。その視線は、ルチアの首元でドヤ顔を浮かべているシロちゃんに突き刺さっている。
「あ、アルヴィン様! 怒らないでください、シロちゃん、なんだか体がすっごくひんやりしていて、枕になってくれてるんです!」
「きゅ~う(どうだ、と言わんばかりに尻尾をパタパタさせる)」
「……ほう。その白イタチ、昨日のお菓子のお礼のつもりかい? 妙な知恵が回る獣だ。だが、ルチアの首元は私の腕枕の指定席…だと言ったはずだが?」
アルヴィンはアメジストの瞳をギラリと光らせると、シロちゃんに対抗するように、自分の腕に心地よい氷系魔術の冷気をまとわせた。そして、ルチアを自分の胸元へと強引に引き寄せる。
「ひゃっ……! アルヴィン様の腕もひんやりしてて気持ちいいです……っ!」
「だろう? 獣の毛並みなどより、私の方がずっと冷たくて、君を強く抱きしめられる。ほら、その白大福をそこからどかしなさい」
しかし、シロちゃんも今回は譲らなかった。
いつもはアルヴィンの殺気に怯えて逃げ出すシロちゃんだったが、ルチアに恩返しをしたいという聖獣のプライドがあるらしい。シロちゃんはルチアの首にギュッと巻き付くと、さらに魔力を解放して「冷感もふもふパワー」を最大にした。
左からは、アルヴィン様の独占欲全開の、低くて熱い鼓動が響くひんやり腕枕。
右からは、シロちゃんの極上の癒やしを与える、もふもふ天然冷感枕。
「うぅ……二人とも冷たくて最高に気持ちいいのに、挟まれてる私はドキドキして心臓が保ちません……っ!」
ルチアは、贅沢すぎる「冷たい板挟み」に嬉しい悲鳴を上げる。
壁のエアコンは、二人の競い合いによって急上昇した寝室の熱気(ルチアの心拍数)を感知し、さらに『抱擁モード』の出力を上げて、優しく三人(?)を包み込むのだった。




