常春の部屋のゲーム大会
トントントントン。
いつもならドアを蹴り破るはずの男が、今日はまるで教会の告解室に入るかのように、神妙に、かつ控えめに寝室のドアを叩いた。
「アルヴィン……ルチアちゃん……。入ってもいいか? 俺だ、マイルズだ……」
「……チッ、また来たのか」
エアコンの『抱擁モード』でルチアを人間抱き枕にして寛いでいたアルヴィンが、この世の終わりを見るような不機嫌な声を出す。ルチアが
「入ってください!」
と応じると、マイルズがそろそろと入ってきた。その手には、ルチアが以前開発した、魔導液晶と魔石を組み合わせて作ったポータブル対戦ゲーム機『魔導スイッチ』が握られている。
「頼む、アルヴィン! 今日は絶対に邪魔しないし、シロちゃんを美味そうとも言わない! だから俺に、その『こーらふろーと』ってやつを食わせてくれ! あと、この前負け越したゲームの雪辱を果たさせてくれ!」
マイルズは切実に叫んだ。どうやら給料半分カットのせいで、おやつを買う余裕すらなくなって精神的に追い詰められているらしい。
「マイルズ様、本当に大変そうですね……。アルヴィン様、ゲームでマイルズ様が勝ったら、お給料を全額戻してあげるっていうのはどうですか? フロートなら、私の分を分けてあげますから」
ルチアが提案すると、アルヴィンはアメジストの瞳をギラリと冷たく光らせた。
「いいだろう。ルチアの優しい提案だ、乗ってあげるよ。……ただしマイルズ、君が負けたら、今月の給料は残り半分も全額没収。来月までタダ働きに処するが、それでもいいかい?」
「望むところだ! 今日こそお前のそのすました顔を、ゲームの中でボコボコにしてやる!」
こうして、涼しい寝室のベッドの上で、男二人のプライドと生活費を賭けたゲーム大会が幕を開けた。
プレイするタイトルは、ルチアが前世の知識で作った、魔導のキャラを操作して場外へ叩き落とし合う大人気格闘ゲーム。
「いくぜ、俺の『大剣使い』の超必殺技――」
「遅いね。そんな大振りのモーション、フレーム単位で隙だらけだ」
アルヴィンは画面すらほとんど見ず、ルチアの肩を片手で抱き寄せたまま、もう片方の手だけでコントローラーを操作していた。それなのに、アルヴィンの操作する『氷の魔導師』は、マイルズの攻撃を全て完璧なステップで回避し、容赦のない超絶コンボを叩き込んでいく。
ドカバキ、キィィィン!! 『GAME OVER! PLAYER 1 WIN!』
「ぎゃあああ!? コンボが途切れねえ!! なんだその神がかったワンハンド操作は!?」
「君の動きが単細胞すぎるだけさ。はい、二戦目」
アルヴィンは一切の容赦がなかった。二本目、三本目と、マイルズのキャラクターは文字通り一歩も動けないまま、画面の端から端へとコチョパン(※空中コンボで手も足も出ずにボコボコにされること)にされ、場外へと消え去っていく。
「きゅ~う(哀れなものを見る目)」
ソファからその様子を眺めていたシロちゃんすら、マイルズに同情の視線を送るほどの、圧倒的な完封劇だった。
「10戦全敗だね、マイルズ。これで君の来月の給与もゼロだ。明日から王宮の廊下を雑巾でピカピカに磨き上げるといい」
「うわああああん! 鬼! 悪魔! 冷徹公爵!! ルチアちゃん、助けてくれぇ!!」
ベッドの上で灰のようになって項垂れるマイルズ。ルチアは苦笑いしながら、
「はいはい、お疲れ様でした」
と、約束のコーラフロートをマイルズの前に置いてあげた。
「マイルズ様、ゲームは惨敗でしたけど、頑張ったご褒美です。アルヴィン様、お給料カットは半分だけで勘弁してあげてくださいね?」
「……ルチアがそう言うなら、タダ働きだけは免除してあげよう」
マイルズは涙目をこすりながらフロートを一口啜り、
「美味っ……! 負けた身体に染みるぜ……!」
と、ボロボロになりながらも幸せそうに悶絶していた。
結局、マイルズがフロートを飲み干してすごすごと退散した後、アルヴィン様は
「余計な男にフロートを食べさせてしまった」
と再びへそを曲げ、エアコンの『抱擁モード』を最大出力にして、夜が明けるまでルチアをベッドの中でみっちりと甘やかし倒すのだった。




