ご褒美ひんやり炭酸フロート
「……ん、ふぁ……。アルヴィン様、もうお城は遠くのほうですから、そんなにキツく抱きしめなくても大丈夫ですよ?」
「だめだ。陛下の前で君を横に並ばせていた数十分の間に、私のルチア成分は完全に枯渇してしまった。今すぐここで、君の体温と匂いを補給させてもらわないと動けない」
アルヴィンはプラチナブロンドの髪をルチアの胸元に預け、大きな身体をこれでもかと擦り寄せてくる。
エアコンは新機能のおかげで、二人の急上昇する熱気を感知して絶妙に心地よい冷風を送り続けているが、アルヴィン様自身の熱い独占欲までは冷却できないらしい。
「本当に、アルヴィン様は外に出ると黒ハラ全開なのに、この部屋に戻ると甘えん坊さんになりますね……。あ、そうだ! 頑張って陛下を追い払ってくださったアルヴィン様に、冷たくて美味しいおやつを作ってあげます!」
「おやつ?」
アルヴィンが耳をピクリと動かし、アメジストの瞳を潤ませてルチアを見上げた。
「はい! ちょっと腕を離してくださいね。すぐそこ(寝室に併設されたミニキッチン)で作りますから!」
ルチアはベッドを抜け出すと、マイルズが命がけで採ってきた『アイス・ベル』の残りと、以前開発した『魔導コーラ』、そして自作のバニラアイスを取り出した。
(せっかくエアコンが完璧なんだから、前世の夏の定番、あの最高に贅沢なドリンクを作っちゃおう!)
ガラスのコップに、シュワシュワとパチパチ弾ける漆黒のコーラを注ぐ。そこに、凍らせたアイス・ベルの果汁を少し忍ばせ、仕上げに冷たいバニラアイスをこんもりと浮かべる。
前世で言うところの『コーラフロート・アイスベルカスタム』の完成だ。
「きゅ~う!」
匂いを嗅ぎつけたシロちゃんが、ソファからトトトッと駆けてきて、ルチアの足元でシッポをぶんぶんと振っている。
「シロちゃんには、この冷たいアイス・ベルのクラッシュをあげるね。はい、どうぞ」
「きゅふぅ~ん!」
シロちゃんが夢中でシャリシャリと食べ始めるのを横目に、ルチアは特製フロートをベッドのアルヴィンのもとへ運んだ。
「お待たせしました! 異世界の定番、コーラフロートです!」
「……黒い炭酸の上に、白い氷菓が浮かんでいるね。不思議な見た目だが、とても涼しげだ」
アルヴィンは手渡されたスプーンで、コーラが少し染みてシャリシャリになったバニラアイスを掬い、口に運んだ。
途端、バニラの濃厚な甘みと、コーラの刺激的なスパイスの香りが弾け、さらにアイス・ベルの爽やかな冷気が喉を駆け抜ける。
「――っ、これは……! 炭酸の刺激をアイスが優しく包み込んで、信じられないほど濃厚で、なのに後味が驚くほど爽やかだ。ルチア、君は本当に天才だね」
「ふふ、気に入っていただけて良かったです! 炭酸とアイスの組み合わせって、前世でも最強だったんですよ」
ルチアが嬉しそうに微笑むと、アルヴィンはフロートをサイドテーブルに置き、空いた手でルチアの手首を優しく捕らえた。
「ああ、最高に美味しいよ。……だけどね、ルチア。これだけ冷たくて刺激的なものを食べた後は、どうしてもしっかりと『暖』をとりたくなってしまうんだ」
「えっ……? 部屋はこんなに涼しいのにですか?」
「私の心が、君の熱を求めて暴走しそうなんだよ。……さあ、陛下に君を渡さなかった私への『本当のご褒美』を、今からじっくり、このベッドの上で受け取らせてもらうよ」
「ひゃうんっ……!?」
アルヴィンはルチアをシーツの上へと押し倒し、とろけるような独占欲を瞳に宿して、その唇を深く、深く塞いだ。
外の世界がどれだけ夏になろうとも、国王がどれだけ欲しがろうとも、この涼しくて一番熱い秘密の部屋だけは、誰にも暴けない二人の絶対聖域なのだった。




