執念の改造
「……というわけで、昨日の今日で申し訳ないんですけど、エアコンを少し改造してもいいですか?」
翌朝、ルチアは寝ぼけ眼のアルヴィンをよそに、工具箱を広げて魔導エアコンの筐体を解体していた。
昨日、アルヴィン様にいいように密着・拘束された悔しさと、エンジニアとしての探究心がルチアの中で爆発していたのだ。
「改造? 別に構わないけれど、君が無理をして体調を崩すのは困るよ」
「いえ、これは私の名誉のためです! 昨日のような『魔力の過負荷』で止まるなんて、設計者として認められません!」
ルチアは鼻息荒く、魔石の回路に新たに書き換えた「制御用ルーン」を刻み込んでいく。
彼女が前世の知識を総動員して作り上げたのは、名付けて『絶対快適温度・独占維持モード搭載・最新型空調システム』だ。
「よし……完成しました! これで、たとえどれだけ急激な負荷がかかっても止まりません!」
「ふうん? ……して、具体的にはどのような機能が?」
アルヴィンは興味深そうに、ルチアの作業を背後から覗き込む。
ルチアは少しだけ頬を染めながら、誇らしげに新しいスイッチを指差した。
「一つ目は『自動負荷分散ブレーキ』。魔力が急上昇しても、それを熱に変えて循環させる仕組みです。そして二つ目は……その、『抱擁モード』です」
「抱擁モード?」
「そうです……! 二人がベッドの上で抱き合っている時、心拍数と体温の変化を検知して、一番心地よい室温をキープしつつ、風の当たり方を調整して……その、アルヴィン様が私を抱きしめやすいように、冷気を優しく包み込むように送る機能です!」
アルヴィンは一瞬きょとんとした後、喉の奥で
「ふっ」
と低く笑った。
「なるほど。つまり、君は私が君を抱きしめることを前提として、この機能を組み込んだということだね?」
「ち、違います! そうじゃなくて、効率的な魔力運用を考えたら、二人の体温を考慮するのが一番……っ」
「いいよ、ルチア。素晴らしい機能だ。……早速、その『抱擁モード』というやつを試してみようか」
アルヴィンはスイッチを入れるやいなや、ルチアをベッドへ引きずり込み、スイッチを「オン」にした。
ブォォ……と静かな駆動音が響き、驚くほど柔らかく、まるで春の陽だまりのような優しい冷気が二人を包み込む。
確かに、昨日のような氷の檻のような冷たさではなく、アルヴィンの体温とルチアの体温を優しく循環させるような、極上の心地よさだ。
「……っ、すごいです。本当に、肌に風がまとわりつくみたいに……」
「ああ、素晴らしい。これなら、何時間でもこうして君を抱きしめていられるね」
「うっ……! スイッチ切ります!」
「ダメだ。君が作った最高傑作だぞ? 責任を持って、夜が明けるまでじっくり検証してあげないとね」
ルチアが作った『抱擁モード』は、結果として、アルヴィン様がルチアを逃がさず、かつ快適に抱きしめ続けるための「究極の拘束具」となってしまった。
部屋の温度は完璧に制御されているのに、ルチアの体温はアルヴィン様の愛のせいで、抱擁モードの限界突破寸前まで上昇し続けるのであった。




