甘い協力作業
「……故障、ですね。魔石の魔力循環回路に、過負荷による熱暴走の痕跡があります」
シーツにくるまっていたルチアは、いつの間にか眼鏡を鼻先に乗せ、修理技師の顔つきになっていた。
そう、この魔導エアコンは、前世の記憶を持つルチアが、この世界にない快適な生活を手に入れるために、寝る間も惜しんで設計・構築した「最高傑作」なのだ。
「直さなきゃ!この回路の癖を知っているのは、私だけなんです!」
「おや、ルチアは直しにかかるのかい?」
アルヴィンは、さっきまでの「涼しい氷の檻」を解こうとはしないまま、ルチアを後ろから抱きしめていた。
氷の結晶に囲まれたまま、ルチアは慣れた手つきでドライバーを手に取り、エアコンのカバーを外していく。
「あ、でも……。ドライバーを回すのに、少し力が必要で……」
「そういうことなら、私の出番だね」
アルヴィンはルチアの手の上に自分の大きな手を重ねた。
「設計者である君が指示を出し、私という最高の魔力源が動力を供給する。完璧な共同作業じゃないか」
「うっ……それは確かに効率的ですけれど……」
ルチアは赤くなった顔を隠すように作業に集中する。
エアコンの内部は複雑な結晶回路で構成されている。ルチアが
「そこの結晶を、右に3ミリ回して魔力をバイパスさせてください!」
と指示を出すと、アルヴィンは一切の迷いなく魔力を指先に集中させ、ルチアの意図通りの超精密な調整を行う。
「さすがだね、ルチア。君の設計図は、私の知るどんな魔法の術式よりも美しいよ」
「……っ、そんなこと言っても、魔石の温度は下がらないですよ!」
ルチアはドキドキする心臓を無視して、回路の焼けた部分を指先でなぞる。
その時、密着しているアルヴィンの体温と、魔力回路から漏れ出る微細な魔力が混ざり合い、ルチアの指先に不思議な感覚が伝わった。
「あ……! 繋がった……!」
カチリ、と小さな音がして、魔石が再び淡い青色の光を取り戻した。
途端、部屋中に心地よい冷気が勢いよく噴き出す。
「直りました……!」
ルチアが顔を輝かせた瞬間、アルヴィンはルチアを抱きしめたまま、その額に優しく口づけを落とした。
「見事だったよ、我が愛しき設計者。……さて、これで部屋は涼しくなったけれど。修理の代償として、君の心臓はもう、私の腕の中で鳴り止まなくなっているようだが?」
修理を終えて満足感に浸るルチアを、アルヴィンはそのままベッドの奥へと押し倒す。
エアコンが直って快適になった部屋で、今度はアルヴィン様による「設計者の労い(という名の甘いお仕置き)」が、夜が明けるまで続くのであった。




