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天才魔法具師は、スパダリに保護される  作者: 輝久実


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命がけのお詫びパフェ

「た、頼むルチアちゃん! これを受け取って、アルヴィンのやつに『マイルズは本当に反省していた』って伝えてくれ! じゃないと俺、今月の宿舎の飯代すら払えなくて干からびちまう!」


公爵邸の裏口で、マイルズはボロボロになったマントを羽織ったまま、必死の形相でルチアに頭を下げていた。


その腕に抱えられているのは、頑丈な魔導保冷箱。中からは、周囲の空気をひんやりと冷やすほどの、凄まじい「冷気」が漏れ出している。


「マイルズ様、そんなにボロボロになって……! 一体これ、何ですか?」


「公爵領の最北の霊峰にしか実らない幻の果実、『アイス・ベル』だよ! 王宮の夜会でも一粒金貨一枚で取引される最高級品だ! 立ち入り禁止の魔獣の巣に潜り込んで、命がけでいできたんだからな!」


箱を開けると、そこにはまるで透き通る氷細工のように美しくきらめく、淡いブルーの苺のような果実がぎっしりと詰まっていた。一粒触るだけで、指先からひんやりとした心地よい冷たさが伝わってくる。


「わぁ……綺麗……! ありがとうございます、マイルズ様! アルヴィン様には私から上手く言っておきますから、早くお怪我の手当てをしてくださいね!」


「恩に着るぜ、ルチアちゃん! まさに女神だ……!」


マイルズは涙目で感謝すると、ホッとした様子でコソコソと退散していった。


「――というわけで、アルヴィン様。マイルズ様が命がけで採ってきてくださったので、お給料カットは無しにしてあげてくださいね?」


ルチアは出来上がったばかりの『特製スイーツ』を、テーブルに並べながらアルヴィンに微笑みかけた。


「ふん……。自分の命と給与がかかっている時のあいつの行動力だけは、認めざるを得ないね」


アルヴィンは、相変わらずエアコンの効いた涼しい部屋で優雅に椅子に腰掛け、アメジストの瞳を細めた。けれど、ルチアが目の前に置いたガラスの器を見て、その瞳を驚きに大きく見開いた。


「ルチア、これは……?」


「前世の日本で大人気だった、『ふるーつぱふぇ』です! マイルズ様のアイス・ベルを贅沢に使ってみました!」


ガラスの器の中には、ルチアが魔導具を駆使して作った冷たいバニラアイスと生クリームが美しく層を成し、その上には細かく刻まれた、きらきらと輝く『アイス・ベル』がこれでもかとトッピングされている。

さらに、仕上げに果汁で作った特製のブルーシロップがとろりとかけられており、見た目にも涼しげで芸術的な一品だ。


「きゅ~う!」


足元では、エアコンの涼風に吹かれながらシロちゃんが身を乗り出し、パフェの冷気につられて物欲しそうな声を上げている。


「シロちゃんには、こっちの小さなお皿に分けたアイス・ベルをあげるね」


「きゅふぅ~ん!」


シロちゃんが大人しくなったところで、ルチアはアルヴィンにスプーンを手渡した。


「さあ、アルヴィン様。アイス・ベルは口の中でシャリッと解けるってマイルズ様が言っていました。アイスと一緒にどうぞ!」


「ありがとう、ルチア。君が私のために作ってくれたものなら、毒が入っていても残さず食べるよマイルズの持ってきたものだけどね」


アルヴィンはスプーンでパフェを一口掬い、端正な唇へと運んだ。


バニラの濃厚な甘みと、アイス・ベルの爽やかでシャリッとした氷のような食感、そして口いっぱいに広がる上品な甘酸っぱさが、完璧なハーモニーを奏でる。


「……! 素晴らしいよ、ルチア。冷たさが心地よく口の中で弾けて、まるで夏の夜空の星を食べているようだ。マイルズの拾ってきた石ころ(果実)が、君の手によって至高の芸術品に変わったね」


「石ころだなんて、マイルズ様が泣いちゃいますよ? ふふ、美味しいですか?」


「ああ、最高に美味しい。……だが、これだけ美味しいものを、私一人で食べるのはもったいないな」


アルヴィンはスプーンに新しくパフェを掬うと、それをルチアの唇の前へと差し出した。


「はい、ルチア。あーん、をしておくれ」


「えっ!? あ、あの、私は自分で食べられますから……っ!」


「ダメだよ。これはマイルズの罪を許すための『お詫び』のパフェなんだろう? ならば、私を必死に宥めてくれた君も、一緒に味わう権利がある。……ほら、口を開けて?」


アメジストの瞳に、逃がさないと言わんばかりの、とろけるような甘い光が灯る。


ルチアは真っ赤になりながらも、拒みきれずに小さな口を開けた。


「……ん、ぁ……」


シャリッとした冷たさと、濃厚な甘みがルチアの口内に広がる。


「……っ、すっごく美味しいです……!」


「ふふ、可愛いな。唇の端に、少しクリームがついているよ」


「えっ!?」


ルチアが慌てて指で拭おうとした瞬間、アルヴィンがすっと上体を微かに傾け、ルチアの唇の端に、そっと自分の唇を重ねた。


「んむ……っ!?」


ちゅ、と小さな音が部屋に響く。アルヴィンはルチアのクリームを優雅に、そして色っぽく舌で舐めとると、満足そうに微笑んだ。


「うん、パフェも美味しいけれど……やっぱり、君の甘さには敵わないね」


「アルヴィン様ぁ!! 誰か来たらどうするんですか……っ!」


「誰も来させないさ。……さて、マイルズの給与は半分だけ戻してあげることにして、残りの半分は、明日またルチアに新しいお菓子を作ってもらうための材料費に充てよう。……さあ、ルチア。パフェを食べ終えたら、冷たいベッドに戻って、今の『あーん』の続き(・・・・)をしようか?」


結局、マイルズの命がけの献上品すらも、アルヴィン様がルチアを甘やかすための口実へと昇華されてしまうのだった。

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