禁断のジャンクフード
「お、美味しいぃぃ……っ!!」
ルチアはソファの上で、揚げたての薄切りポテトを口に放り込み、悶絶していた。
パリッ、サクッ、という軽快な音とともに広がる、絶妙な塩気と油の旨味。これぞ前世で愛した悪魔のオヤツ、ポテトチップスだ。
さらに、ルチアの手元にはガラスコップに注がれた、シュワシュワと泡立つ漆黒の液体がある。数種類のスパイスと柑橘、そして炭酸ガスの魔法陣を組み込んで再現した、特製『魔導コーラ』だ。
ゴクゴク、と喉を鳴らして飲み干せば、パチパチとした刺激が爽快に駆け抜ける。
「プハァーッ! 最高です! エアコンの効いた部屋で、ゲームをしながらコーラとポテチ……! ここは天国ですか……!」
「本当にルチアの閃きには驚かされるね。この、口の中で弾ける『たんさん』という刺激……最初は驚いたが、この独特の甘みとジャンクな塩気のループは、確かに癖になる」
隣に座るアルヴィンも、指先をわずかに塩で汚しながら、優雅にポテトチップスを口に運んでいる。その姿は、最高級のトリュフでも味わっているかのように気品に満ちているが、やっていることは完全に「ゲームをしながらポテチを貪るオタク」のそれであった。
二人がコントローラーを握り、画面の中で再び熾烈なレースを繰り広げていた、その時。
ドォン!! と、部屋の頑丈な扉が凄まじい音を立てて開け放たれた。
「おいアルヴィン!! 夜会以降、一度も登城しないと思ったら、ルチアちゃんを監禁して何をして――って、なんだぁ、この部屋の涼しさは!?」
入ってきたのは、大剣を背負った赤髪の美男子――二人の良き理解者であり、脳筋気味なパーティーメンバーのマイルズだった。
「ひゃあ!? マ、マイルズ様!?」
ルチアが跳び起きる。アルヴィンは、邪魔をされた不快感を隠そうともせず、アメジストの瞳を極寒の氷のように冷たく尖らせてマイルズを睨みつけた。
「……マイルズ。ノックもせずに私の聖域(ルチアの部屋)に踏み込むとは、いい度胸だね。国家反逆罪で今すぐその首を刎ねてほしいのかい?」
「相変わらず脅しのスケールがデカいな! 違う、お前が仕事をサボって引きこもってるから様子を見に来たんだよ! ……っていうか、壁のその光る箱はなんだ? なんで外はあんなに蒸し暑いのに、この部屋だけ冬なんだよ!?」
マイルズは魔導エアコンを見上げ、さらに壁に映し出されたゲーム画面と、二人の手にある怪しいお菓子に目を留めた。
「なんだそれ、美味そうだな。一口くれ」
マイルズが物怖じせず、テーブルの上のポテトチップスを数枚まとめて口に放り込む。そして、ルチアのコップに入っていたコーラを勝手に盗み飲みした。
「――ぶっはあああ!? なんだこれ!! シュワシュワが喉を直撃して、そのあとのこの濃い味のイモ!! 悪魔の食い物かよ、美味すぎるだろ!?」
「あ、あはは……気に入っていただけて良かったです」
「ルチアちゃん、これ俺の詰所にも導入してくれ! 訓練の後にこれ食ってこの涼しい部屋にいたら絶対最高じゃん!」
マイルズがガシッとルチアの肩を掴もうとした瞬間、部屋の温度が物理的に氷点下まで下がった。
「マイルズ。その汚い手でルチアに触ろうとしたら、二度と大剣を握れない身体にしてあげるよ」
アルヴィンが、マイルズの手首をもの凄い力で掴んで引き剥がす。その笑顔は完全に「黒ハラ」モード全開だ。
「わーった、悪かったって! 触らねえよ! ……チッ、相変わらず独占欲の塊だな。おいルチアちゃん、こいつ普段からこんなに重いのか?」
「えっ、あ、ええと……(いつもこの何倍もベタベタされてます、とは言えない……!)」
顔を真っ赤にするルチアを見て、マイルズはすべてを察したようにハァ、と深いため息をついた。
「ま、元気そうで安心したわ。アルヴィン、明日からはちゃんと仕事に来いよ。王太子が『あのプラチナブロンドの悪魔がまた来るかもしれない』って怯えて部屋から出てこねえんだから」
「ふん、自業自得だね。……マイルズ、要件が済んだなら早く出ていっておくれ。お菓子のストックが減る」
「ケチくせえ公爵様だな! ルチアちゃん、また美味いもん作ったら俺にも隠れて教えてくれよな!」
マイルズはそう言い残し、ポテチの袋をもう一つ掴んで、嵐のように去っていった。
静けさが戻った部屋で、ルチアはホッと胸をなでおろす。
しかし、振り返ると、アルヴィンが何やらひどく不満そうな、拗ねたような表情でルチアを見つめていた。
「……アルヴィン様?」
「マイルズのやつ、君の作った大切な『こーら』の間接的キスを奪うなんて。……それに、君が他の男と親しげに話すのは、やっぱり面白くないな」
アルヴィンはソファに深く腰掛け、ルチアの身体を後ろから包み込むようにして、自分の胸にぴったりと抱き寄せた。
「アルヴィン様、マイルズ様はただの仲間ですよ?」
「分かっている。分かっているけれど……私の心の乾きは、君にしか癒せないんだ」
アルヴィンは、ルチアの指先に少しだけ残っていたポテトチップスの塩を、自らの舌先でペろりと、妖艶に舐めとった。
「ひゃ、ゃあんっ……!?」
「ふふ、やっぱり、ルチアのほうがどんなお菓子よりも甘くて美味しいね。……さあ、邪魔者も消えたことだし、ゲームの続きをしよう。今度は私が勝ったら、お仕置きとして、耳元で可愛い声を上げてもらうからね?」
マイルズの登場で一瞬だけ外の風が吹いたものの、結局はエアコンの冷気とアルヴィン様の熱い溺愛の中に、ルチアは再び閉じ込められてしまうのだった。




