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悪夢の終わり②

 紅くきらめくピジョン・ブラッドの大ぶりなその石は、見覚えのあるものだ。


 「あれって……」


 「センセイから預かってたやつだよ」


 「やっぱり」


 それはサーマ領の港町で、モモが鳥型の魔物を討伐した際に得た純度の高い魔宝石であった。

 どうやら、ジョージの手から、サンフラワー伯爵の手に渡っていたらしい。


 「我々が眠りに落ちた後何があったのかは、『コイツ』に聞くとしましょう」


 サンフラワー伯爵がそう告げると同時に、魔宝石が強い光を放つ。

 虚空に映し出されたのは、『断罪』直後のセレモニー会場の様子だ。


 『魔女』を追い詰めて勝ち誇った顔のオータムナル王太子と、美しい黄色のドレスを身に纏うリコの姿が、鮮明に映し出される。

 会場内の者達が次々と倒れる中、最後までその場にいたのはリコとオスマンサス侯爵夫人だけであった。


 「……これが、オスマンサス侯爵夫人に取り憑いていた魔性か」


 「なんと美しい……まるで天使の皮を被った悪魔のようだ」


 目の前に映し出される赤と白の攻防を、貴族達は呆然と見上げるばかりだ。

 オータムナルも、そしてリコも言葉を発することなく蒼白とした顔で佇んでいる。


 「……どうやら、これが顛末のようですな」


 モモが『白鳥』を撃破したところで、サンフラワー伯爵が片手をあげて魔法の発動を止める。

 そうして、真っ直ぐに王太子を見据えた。


 「これでもまだ、ご自身の『正義』に固執されますか、オータムナル王太子殿下?」


 音声を再現できるジョージと同じく、その父であるサンフラワー伯爵も諜報向きの魔法を扱う。

 サンフラワー伯爵家にのみ伝わる魔法を知っている貴族達は、その信憑性をよく分かっていた。


 「貴様……わざと捕まったな?」


 「親愛なるマロウ・ブロッサムを、一人には出来ませんのでね」


 彼はオータムナルやリコに近付くため、玉座の御前に引っ立てられることを想定して父であるブロッサム伯爵の悪あがきに乗ったようだ。

 わずかに耳を赤くした父に軽く小突かれ、苦笑するサンフラワー伯爵もまた、息子(ジョージ)を愛する父ということなのだろう。


 「これが、事実です」


 ジョージに付き添われ、ローラははっきりとした口調で言い切る。

 眠りに落ちていた間の真実を目の当たりにした貴族達の疑いの目が、確信に変わった。


 「あ、ああ……」


 数刻前までローラを貫いていた悪意の視線は今、リコに向けられていた。

 頬を蝋のように白くしながらその場にへたり込んだリコに、手を差し伸べるものは誰も居なかった。

 己の野望まで記録されてしまったのだ、彼女にはもう言い逃れをする余地は残っていない。


 「……オスマンサス侯爵令嬢を、連行せよ」


 重々しい口振りで、国王の命が出される。

 腰が抜けて動けない彼女を、近衛騎士が抱き起こして連れて行く。

 助けを求めるような目を向けるリコに、オータムナル王太子は動くことは無かった。


 「……本当の『魔女』は、リコだったのか?」


 恋人が連行されていく後ろ姿を見送っていた王太子が、土気色になった唇を震わせる。


 「……私は、ただ真実を伝えたまでです」


 己の中の『正義』だけを信じた男が、絶望の顔でうつむく。

 ローラもまた、新たに産まれてしまった『魔女』の今後を静かに憂いるのであった。


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