悪夢の終わり①
『白鳥』を、シーズニアを脅かした魔性を下したモモがこの世界から去った後、王城は大騒ぎとなった。
夢魔の夢から目覚めればセレモニー会場内は荒れに荒れ、きらびやかなシャンデリアが落とされているような有り様だったのだ。
しかも、『白鳥』の器にされていたオスマンサス侯爵夫人が亡くなっている事も発覚し、王妃を含めた数人の淑女が卒倒する事態となったのだ。
「一体これは……どういう事なのだ!?」
困惑と恐怖におののく王に、真っ先に事の成り行きを告げたのは、ジョージであった。
玉座の前に膝を折り、静かに一礼する彼の姿はまるで正騎士のように立派であった事を覚えている。
「恐れながら陛下、この度の一連の事柄はオスマンサス侯爵夫人ならびに、リコ・オスマンサス侯爵令嬢に取り憑いていた、異界の魔物が引き起こしたものです」
ジョージのよく通る声に、周りの貴族達の視線が一斉にリコへと向く。
周りと同じように目覚めた彼女は、青ざめた顔でよろりと一歩後ろへ後ずさる。
「異界の魔物とな……?」
「夢魔の一種で、シーズニアの各地に存在する歪みからやってきた存在です。 人の弱みや欲に付け込み、王都中の娘や薔薇の精気を吸って力を付けていたのです」
「ふむ……して、その魔物はどこに行ったというのだ?」
「ローラ・ブロッサム伯爵令嬢の教育係である『旅人』モモ・エンデの活躍により既に討伐されました。 モモ・エンデも討伐後、高濃度の魔力反応で生成された歪みから元の世界に帰還しております」
ジョージの言葉には曇りなど一つもない。
これらは全て、ジョージ自身が実際にこの場に居合わせたのだから当然だ。
「にわかには信じられぬが……」
「おそれながら、『白鳥』を討伐した際に奪われていた魔力が元の場所に戻るのを見ております。 王都内で昏睡している令嬢達もいずれ目覚めるかと存じます」
国王が、難しい顔で考え込む。
端から聞けば、大層な夢物語に聞こえるだろう。
しかし、原因不明の睡魔に王城中の人間が眠りに落ちていたのだ。
「確かに、ブロッサム伯爵令嬢達が逃走した後に奇妙な眠気が襲ったわ……」
「オスマンサス侯爵令嬢が、王太子妃がどうのと話していたような気がする……」
疑惑の視線がリコを中心に渦巻いていく。
怯えるリコを庇うように前に立ったのは、オータムナル王太子であった。
「出鱈目を言うな、サンフラワー伯爵令息!
自分達の分が悪いと思ってこのような三文芝居を打っているのだろう!」
ジョージを糾弾する大声には、虚勢が満ちている。
目を血走らせたその顔は、まるで何かを認めたくないようであった。
ジョージだけに任せるわけにはいかない。
ローラは王太子の怒れる瞳を見据え、口を開く。
「……ジョージ・サンフラワー伯爵令息の言う事は本当の事です。 会場内に遺された白い羽根が何よりの証拠ではないでしょうか?」
絨毯や壁には、モモの火炎魔法の余波で出来た焦げた跡と共に、至る所に白い大きな羽根が突き刺さっている。
それは、このセレモニーに招かれざる客が訪れていた事を如実に示していた。
「――うるさい、うるさい!! この『魔女』め、貴様が全て仕組んだのであろう!」
青筋を立てたオータムナル王太子が、唾を飛ばしながらローラを指差す。
その姿に、王族の気品は感じられない。
「私やジョージにはこのような力はありません、真実を伝えたまでです」
「そこまで言うのならば証拠を出してみろ!」
この期に及んで決め付ける彼に、憐れみすら感じられる。
殴り掛かりそうな王太子の勢いに、ローラを後ろに隠したジョージがため息をついた。
それと同時に、動いたのはサンフラワー伯爵であった。
「……証拠があれば良いのですな? 王太子殿下」
敵意を孕んだ冷たい目眼で王太子を睨む父を宥め、不敵な笑みと共にサンフラワー伯爵は首を傾げる。
その手には、美しく輝く魔宝石が握られていた。




