目覚めしスノードロップ
冬にも、咲く花はある。
主役であるパンジーやビオラ、気品高い水仙やクリスマスローズ、可憐な花をつけるスノードロップやローズマリーなど、冬であろうとも庭の彩りが褪せることはない。
暖炉に設置した魔道具により温度調整がされた快適な室内で、ローラは集中した様子で、差し出された白魚のような手に彩りを与えてゆく。
念入りなマッサージにより血色の良くなった手は、さぞかしネイルが映えるだろう。
「飾りを、付けても良いかしら?」
「ええ、貴女に任せますわ」
ほっそりとしたその指先には、暖かな杏色が乗せられている。
ローラはテーブルの上のジュエリーケースにも似た特注の箱から、小粒のパールをピンセットで取り出して爪の上に置く。
五指全てに小さなパールを飾り立てれば、その指先は一層美しく輝いて見えた。
「――これで完成です」
「ご苦労様」
ふう、と小さな溜め息とともに集中を解いたローラに、ねぎらいの言葉が掛けられる。
左右均等にデザインされたネイルの出来を眺める、その満足そうな姿を見やりながらローラは静かに微笑んだ。
「お気に召していただけましたか?」
向かいに座る濃紺の大人びた冬用のドレスを身に纏った令嬢は、庭に咲く花々よりも華やかで気高い。
ローラへと向けられた鮮やかな緑の瞳が、嬉しげに細められる。
「ええ、やっぱり貴女はセンスが良いわ」
数少ない友人であるゲルダ・スノードロップ公爵令嬢は、親しげに微笑んだ。
◆◆◆
ゲルダが目を覚ましたのは、セレモニーの翌日の事であった。
『白鳥』によってジワジワと魔力を蝕まれながら長い間眠りに落ちていたゲルダだが、無事に現実へと生還したのである。
「後遺症もなくて、本当に良かったです」
「ふふ、ありがとう」
施術が終わり、ゲルダはテーブルの上に置かれた小さな魔道具の前に指先を広げている。
五枚羽根を魔宝石の力で回して風を送るその魔道具は、『センプウキ』というモモの世界にある便利な家具の着想を得て、療養中のゲルダが試作したものである。
卓上に置ける小型のものだが、ネイルを乾かすにはうってつけでローラも一つ譲ってもらったのだ。
「本当に、心配したんですから」
「貴女、わたくしのお見舞いに来て下さった時に泣いていましたものね」
「むぅ……あれで泣くなという方が無理でしょう」
からかうように微笑むゲルダに、ローラが気恥ずかしそうに青い瞳を逸らす。
ゲルダが目覚めた知らせを受けたローラは即座に伝達魔法をメアリーに飛ばしてもらい、翌日に見舞いの約束を取り付けた。
そして、やつれた顔をしながらも気丈に振る舞うゲルダの顔を直接見た瞬間、ローラは涙ながらにその回復を喜んだのであった。
「わたくしが眠っている間、大変だったわね」
「……そうですね」
テーブルの上に広げられていたボックスの中身を片付けながら、ローラは安堵したように小さく微笑む。
「わたくしの分まで戦ってくださったのよね、改めて礼を言うわ」
気高い緑の瞳が、静かに細められる。
ローラは長いまつ毛を瞬かせてからゆるりと首を振った。
「……きっと、ゲルダ様が同じ立場ならそうされたと思いますわ」
「当たり前よ、やられたままなんてスノードロップ家の名前に傷が付くわ。 あと貴女の名前にもね」
「ゲルダ様らしいですね」
指先の杏色にそっと触れたゲルダが、魔道具の稼働を止める。
そうして、久々の再会を喜ぶ友の顔でローラに笑いかけたのであった。
「やっと纏まった時間が取れたのだから、今日は沢山話がしたいわ。 貴女の時間が許す限りね」
「……喜んで、ゲルダ様」
タイミングを見計らったように、アフタヌーンティーの支度をしたメアリーが、扉を開けた。




