モモの強さの理由
一歩、モモが歩を進める度にヒールから火花が散る。
巻き上がる熱風に、揺れる奔放な赤い髪もそのままにモモはゆっくりと白鳥との距離を詰める。
「やめて、来ないでよ……」
形勢逆転とはこの事を言うのだろう。
先程まで憎たらしいほどの余裕を見せていた『白鳥』は、顔を青ざめさせながらじりと一歩下がる。
ひゅ、ひゅと、緊張で短く浅くなった呼吸を繰り返しながら、『白鳥』が、後ろで座り込んだままのローラとジョージを振り向きざまに視界に入れた。
「ま、まだだ……コイツらの精気を吸い尽くせば!」
それは最後の悪あがきであった。
焦燥に引き攣った笑みを貼り付け、軽やかに床を蹴った『白鳥』が滑るような動きでローラへと詰め寄る。
「あっ……」
『白鳥』と同じく、魔力の殆どを消費したローラは思うように動くことが出来ない。
(このままでは、私もジョージも死ぬ……!)
せめて、ジョージだけでも守らなければ。
ローラは幼馴染の身体を抱き締めて身を縮こませる。
「ウオラアアァー!!」
野獣の如き咆哮がローラの鼓膜を揺るがす。
夢魔の魔の手が振り降ろされる前に、モモが『白鳥』の背中を切り裂いていた。
「がはっ……!?」
傷口から、紅蓮の炎が噴き上がる。
切り落とされた白い片翼が、勢いよく燃え広がりながら床に落ちた。
「もう一丁! 断ぁつ!!」
モモが野太い声と共に、無防備な背中にもう一撃鉄扇を振り抜く。
両方とも翼をもがれた『白鳥』は、痛みによるうめき声をあげながら惨めに絨毯を転がる。
「ぐあ、あぁ……はねが、僕の羽根が……っ」
羽根に半分以上覆われた白い顔を土気色にさせた『白鳥』の、背中にリコの『癒しの光』が宿る。
しかし、その傷が塞がるのをモモが許さない。
「『白鳥の水かき』とはよく言うけれど……白鳥のあがきはみっともないだけねっ!」
手の上に作り出される火球に照らされたモモの瞳が、爛々と輝いている。
放たれた火球が弾丸のように背中の傷を抉り、苦痛に塗れた『白鳥』の絶叫が響いた。
「ぎひぃ、あがぁああ……」
リコの魔法をもってしても、傷の治りは追い付いていない。
脂汗をかきながらもよろよろと立ち上がった『白鳥』を、ギラついた目で見下ろすモモは立派な捕食者の顔をしていた。
「どうして、お前はこんなっ……異世界の縁もゆかりも無い人間にそこまで出来るんだ……っ!?」
深紅の髪がなびく。
艷やかな唇が悠然と弧を描き、同時に力いっぱい踏み込む。
力強く、けれど軽やかに駆けるモモの姿はまさに『猫』のようだ。
「――っ!?」
懐に入り込んだモモの渾身の斬撃を、避ける余力が『白鳥』には残されていなかった。
「簡単なことだわ」
一刀のもとに胴を分断された『白鳥』の顔が、恐怖と絶望に歪む。
ローラの目の前に降り立ったモモが、振り向き様に紅いハートの投げキッスを送った。
「アタシが、この子たちの先生だからよ」
火柱が豪快に噴き上がる。
断末魔すら上げることもなく、『白鳥』の姿が炎の渦に飲み込まれてゆく。
こうして、灼熱の口付けを贈られた白い夢魔は、文字通り煤も残さず燃え尽きたのであった。




