オネエvs『天使』
モモがハンドバッグを、後ろに居るローラに放るように渡す。
「ジョージはローラを守ってあげて。
ローラは後でソレ、ちゃんと返してちょうだい♡」
受け取ったバッグに込められたモモの想いは、ローラもよくわかっている。
黒のそれをしっかり抱きしめ、ローラは真剣な瞳で頷く。
「ええ、確かに預かりました」
ローラを庇うように、ジョージが前へ出てサーベルを引き抜く。
臨戦態勢に入った二人を嘲るかのように、『白鳥』は艷やかな唇を引き上げて笑った。
「まずはそっちの『猫』から片付けて、ご馳走にありつこうとしようか」
「ふふ、させないわよ!」
ぶわり、と室内に『白鳥』が意図的に強い風を起こす。
風で乱れる髪やドレスの裾を押さえるローラの瞳に映ったものは、柔らかく巻き上がる白い羽根だ。
その中心で微笑み、優雅に片手を上げる『白鳥』は、まるで天使のように見えた。
「来るわよ」
モモの短い言葉に呼応したのは、ジョージであった。
「ローラ、動くな!」
ジョージの魔力が油膜のような防御壁に変わる。
それがジョージとローラをドームのように覆うのと、宙を気ままに舞っていた無数の羽根が一斉に襲いかかったのは同時であった。
「――っ!」
四方八方から飛来する羽根が、ジョージの防御魔法により軽い音を立てて弾かれる。
前方のモモもまた、両腕を開きその巨体を回転させて羽根の襲撃を弾いていた。
「今度はこっちから行くわ」
高いヒールの靴を履いたモモの足が、力強く大理石の床を踏み込む。
迎え撃つかの如く放たれる白い羽根を鉄扇で弾き飛ばしながら、一気に間合いを詰めた。
開かれた扇子による斬撃が、モモの筋肉が発達した腕から繰り出される。
「ふふ、相変わらずバカみたいな力だね」
「アナタも、相変わらず手数は多いけれどこれくらいじゃアタシのパワーに押し負けるわよ」
ふわりと、優美な仕草で避ける『白鳥』に、モモが追撃を加える。
その合間に流れるように放たれる、夢魔のしなやかな蹴りも、予見していたかのように受け流していた。
「相変わらず、出鱈目な戦い方しやがる……」
防御壁に魔力のリソースを割きながら、モモの戦いを見守っていたジョージが呆れたように口を開く。
『白鳥』はローラ達の動きも見ているようで、無数の羽根がジョージの魔法を打ち砕かんと振り注ぐ。
防御壁が無くなれば、一本一本が鋭利な矢と化しているそれが一斉に突き刺さることは明白だ。
「先生……」
ジョージに守られその場を動けないローラは、バッグを抱きしめたまま教育係の攻防を見守る。
モモの魂が、高まっているのであろうか。
その巨体に見合う、太く艷やかな黒猫の尾が優美に伸び、闘争本能に呼応するようにぶわりと膨れ上がった。
「っ……やっぱりキミは手強いな。 さすが手練れの『猫』なだけある」
ぴくりと、モモの黒い猫の耳が揺れる。
「それはどうも。 可愛い教え子たちの仇、取らせてもらうわ」
一つ一つの動きは豪快ながらも、モモの声は至って冷静だ。
手数で応戦していた白鳥だが、次第にモモの攻撃を貰うようになっていた。
やはり、総合的な実力は教育係の方が上のようだ。
「ハハハ……確かに今までのボクだったら、なす術も無くキミに狩られていただろうね」
頬に傷を作り、斬られた腕を庇いながらも『白鳥』の顔は余裕が残っていた。
それに違和感を感じたモモが飛び退ろうと膝を曲げた、その刹那。
「――っ!?」
高いヒールを履いたモモの足が、氷漬けにされるのをローラは見てしまった。
「先生!!」
ローラが叫ぶのと同時に、既に異変に気付いていたであろうモモが己の焔で瞬時に脚の氷枷を溶かす。
しかし、そこに生じた隙を、『白鳥』は見逃さなかった。
「かはっ!?」
視覚では感知しづらい、その広い背中に幾本ものホワイトフェザーが、まるでダーツのように突き刺さった。




