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助けに来たのは……?

 オータムナル王太子に負けず劣らずのよく通る声が会場内に響く。

 濃紺の騎士制服に、騎士団の象徴である白薔薇の紋章のついた緑色の肩帯を斜めに掛けたジョージが、扉を背にして立っていた。


 「ジョージ……っ」


 驚きこそあったものの、幼馴染の顔を見たローラが感じたのは、深い安堵であった。

 一歩、ローラに近付く度に腰に帯刀したサーベルが揺れる。

 空色の瞳がローラを一瞥し、軽く頷いた。


 「ほう、『魔女』の情夫か。 おとなしくしておけば騎士団追放だけで済んだものを」


 馬鹿にしたように嗤うオータムナルとは対照的に、ジョージの目は冷え冷えとしている。


 「貴様は王太子(わたし)という婚約者を持つと知りながらその女と関係を持ち、非道な行いに手を貸した。 そうだろう?」


 「違う。 ローラはただ一生懸命周りとの仲を修復しようと頑張っていただけさ」


 一国の王太子に引くことなく、ジョージは一歩前へ出るとその背にローラを庇う。


 「俺も彼女のひたむきさに触れて、幼馴染として支えていきたいと思っている。 ただそれだけだ、肉体関係なんて一切無いね」


 「バカバカしい、おおよそこの魔女に手でも握られた時に魅了されたのだろう。 ……愚かな男だ、サンフラワー伯爵家も無事だと思うなよ」


 王太子の中では、ローラは既に国を脅かす『魔女』であり、ジョージはそんな『魔女』に誑かされた男になっているようだ。

 ジョージは、話にならないとばかりに首を振った後に懐から拳大の何かを取り出した。


 「手を握る事が罪だと言うなら、そういうお前はどうなんだ王子様?」


 「何が言いたい?」


 ジョージの手の上に乗るのは、青く輝く宝石だ。

 キラキラと輝くそれは純度の高い魔宝石であり、ジョージが魔力を流すと室内に僅かなノイズが走る。


 『――貴族達の間では、ブロッサム伯爵令嬢の話でもちきりみたいですよ』


 『フン、どれだけ隠蔽しても悪行は必ず露呈するものだ』


 流れるのは可憐な少女の声と、今しがたまで高らかに高説を述べていた王太子のものとよく似た声であった。


 『ゲルダだけでなく、ローラも君への虐めに加担していたとはな。 辛い思いをさせて済まなかった』


 『良いのです、オータム様……リコは貴方のお傍に居ることができれば』


 次第に周りがざわつく。

 それは王太子と、『聖女』の密会の声だ。


 『大丈夫だ、リコ。 あの醜悪で傲慢極まりない女共は、修道院送りにして二度と出られないようにしてやる』


 『ありがとうございます、オータム様。 これで、あたしが王太子妃になれるんですね』


 『ああ、今の君なら父上達も認めてくれるだろう』


 オータムナル王太子の誕生セレモニーの日に、ゲルダとローラを王太子妃候補から外し、『聖女』に危害を加えた罪により修道院へ送ろうと画策していたようだ。


 「昼夜逆転しちまったが、王城の夜間警備に志願した甲斐があったぜ」


 ジョージが、空色の瞳を険しく細める。

 唖然とした様子で自分の声を聞いていたオータムナル王太子は、青ざめた顔で口を開く。


 「み、皆の者。 これは罠だ、この男が作り出した偽物だ!」


 「サンフラワー家にのみ伝わる魔法だ、お前も次期国王なら貴族の家系魔法くらい頭に入れておけよ」


 魔法石に記されたものとはいえ、そのよく通る高貴で雄々しい声音は言い逃れは出来そうにない。

 そうこうしているうちに、謀りの相談は愛の睦言へと変わってゆく。


 「まあ……」


 甘やかなリップ音と衣擦れの音。

 『聖女(リコ)』の上げる甘えたような女の声に、ローラは思わず口元を覆った。


 「……これ以上は野暮だな」


 ジョージの呟きと共に、淡い光を放っていた魔宝石が沈黙する。

 会場内の困惑の声を目の前に、オータムナル王太子は青ざめたリコを背後に隠しながら叫んだ。


 「き、貴様! このような場で私達を貶めるつもりか!?」


 「先にローラを貶めようとしたのはそちらじゃないか? なぁ、オータムナル王太子殿下」


 真っ当な指摘に、一瞬オータムナル王太子が口を噤む。

 ジョージが心底軽蔑したように溜息をつく。


 「脇が甘いんだよ、夜とはいえ野外でイチャつくのはオススメしないぜ?」


 「なっ……」


 断罪劇の空気が変わってゆく。

 様子を見ていた貴族達が、ひそひそと話す声がローラの耳にも聞こえてくる。


 ――王太子殿下がオスマンサス侯爵令嬢を寵愛されていたのは知っていたが、まさかここまでとは。


 ――恋は盲目とはこのことね、品性を疑うわ。


 旗色が変わってきたことに焦ったのか、王太子が目を剥いてジョージをがなりたてる。


 「リコは聖女であり真実の愛なのだ。 貴様達と一緒にするな!」


 「何が真実の愛だ、テメエの好きな女と結婚したいがために職権乱用してるだけだろうが!」


 「き、貴様ァ!」


 図星を刺された王太子が激昂する。

 彼の怒声と共に、会場に配置されていた騎士達が剣を抜いた。


 「ローラ!」


 ジョージが、ローラに手を差し出す。

 幼い時分に探検に出ようと笑いかけてくれた、小さな幼馴染の姿が何故か思い浮かんだ。


 「……ジョージ!」


 自分よりも大きくなった手を、しっかりと掴む。

 ジョージに手を引かれ、大広間の出入り口へと駆け出せば扉を守っていた騎士達が行く手を遮ろうとする。

 その身体が、ローラの目の前で勢いよく宙を舞った。


 「……っ!?」


 自分のものとよく似た魔力の残滓を感じ取り振り返れば、白銀の髪を振り乱し、迫りくる騎士達を光弾で牽制しながら、ブロッサム伯爵が鬼気迫る顔で叫ぶ。


 「早く逃げなさい、ローラ!」


 その傍らにはタイを緩めて父に加勢しようとしているジョージの父、サンフラワー伯爵の姿も有る。


 「お父様……っ」


 父と、サンフラワー伯爵は覚悟を決めたのだろう。

 ローラはこみ上げる想いを飲み込み、ジョージと共にその開かれた扉をくぐったのであった。


 「あの二人を捕まえよ! 男は首を跳ね、『魔女』は火炙りにするのだ!!」


 背後から、男達の怒号と女達の金切り声が響いた。

 

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