『風花令嬢』への断罪
それはまるで、罪を暴く執行官のように鋭利な声だ。
「花を咲かせる代わりに生気を吸い取る魔女であることを隠していた罪!」
「その力を使い眠り姫病を引き起こし、他の令嬢やスノードロップ公爵令嬢までも蹴落として妃になろうとした罪!」
「そして一国の王太子妃候補という立場にありながら他の男と関係を持ち、不義を行った罪!」
言われなき罪状のオンパレードに、思わず息を飲んだ。
「……は?」
愕然とした顔のローラに気を良くしたのか、傲慢な笑みを浮かべた王太子は空間中に響く声で高らかに告げた。
「このような恐ろしい女を王太子妃に、ましてや未来の妃にはさせておけない! 『風花令嬢』……いや、魔女ローラ! 貴様は今此処で裁かれるのだ!」
述べられた罪状は、殆ど言いがかりのような事実無根の事ばかりだ。
謂れなき罪の捏造に内心青ざめながらも、ローラは気丈に上座の王太子を睨み上げる。
「殿下、それらは全て捏造です」
「貴様はこの期に及んで言い逃れをするのか!」
「私は魔法を人に使ったことなど一度も有りません。 それに王城や貴族の邸には魔法を感知する魔道具が有ります、私が魔法を使えばそれが記録に残るでしょう」
オータムナル王太子の目が、剣呑に光る。
まるで目の前の小動物を甚振るのが楽しくて仕方ない獣のようだ。
「白々しい、お前は精霊の先祖返りだという。
その血を悪用し、魔道具には反応しない呪いを掛けたのであろう!」
荒唐無稽な話だ、言い返そうとするローラの声に被せるようにオスマンサス侯爵夫人が扇子の影で笑みを深めながら口を開いた。
「そういえばこの三日は新たな犠牲者が出ておりませんわね。 丁度ブロッサム伯爵令嬢が、館に籠っていた時期と重なっておりますわ」
「そんな……」
言い掛かりにも程があるが、やっていないことを証明することは極めて困難である。
オスマンサス侯爵夫人の援護射撃により、周りの空気も次第に不穏なものへと変わってゆく。
「娘は誓ってそのような恐ろしい事はしていない。 ……王妃、近くで見ておられた貴女は解っているでしょう」
父・ブロッサム伯爵の声に、玉座に座す王妃が大きく目を見開いた後に気不味そうに視線をそらす。
「母上を巻き込むな、ブロッサム伯爵!」
実母を攻撃されると思ったのか、王太子の鋭い牽制が入る。
「お前の娘は冷酷で欲深く、人を傷付けることに喜びを感じる悪女だ。 他の男と容易く関係を持つ淫乱のどうしようもない娘なのだ」
令嬢としての貞淑さまで踏み躙られ、ローラは不愉快そうに顔をしかめる。
「そのようなおぞましい事、身に覚えがありません」
「大人しい顔をしてよく言う、貴様がサンフラワー伯爵家の次男と男女の関係に有るのは調べがついているんだ!」
「なっ……!?」
自分が貶められるなら、まだ良い。
この場に居ない大切な幼馴染を引き合いに出されるのは我慢ならなかった。
「サンフラワー伯爵令息はただの幼馴染です! 確かにサーマ領への小旅行にはガイドを願いましたが、そのような関係ではありません!」
ローラの言葉に、オータムナル王太子は小馬鹿にしたように鼻で笑うだけだ。
「高位の令嬢を含め、多数の娘に害をなし死人まで出してまで王妃に固執した……これは国を転覆させる重大な罪だ」
王太子の言葉に、周りの貴族達もちらほらと同意の声を上げ始める。
人々の疑念や恐怖は怒りとなって膨れ上がり、ローラへと牙を剥く。
「ブロッサム伯爵令嬢は魔女なのだ」
「ブロッサム家の爵位を剥奪して平民に落とすべきだ」
「私の孫は未だ目覚めない、どうしてくれるのだ!」
怨嗟と畏怖の声は大きくなっていく。
その矛先は、たおやかな伯爵令嬢へと一斉に向けられた。
「貴様は生涯、北方にある修道院に幽閉とする。 本来なら火炙りでもおかしくないのだ、優しいリコに感謝するんだな」
歪んだ笑みを浮かべて正義感に酔いしれる王太子の傍らで、リコは酷く冷たい目でローラを静かに見つめている。
(まるで知らない人みたいだわ)
ゲルダのお茶会で傷を癒してくれた時のあのはにかむような笑みは、何処にも見当たらない。
アプリコットに染められた指先を、ぎゅっと握りしめる。
「おい、ちょっと待てよ!」
追い詰められたローラの背に、鋭い声が掛けられたのはそれと同時であった。




