帰還か、消滅か
「ま、待って下さい。
どういうことですか?」
モモの発言は想像の範疇を超えていた。
てっきり、モモのいた世界に戻るのだとばかり思っていたのだ。
「説明が難しいんだけど、アタシ達退魔師は肉体と魂を切離して夢に潜るの」
「……」
「アタシが歪みに吸い込まれたのは夢の中の世界。 つまりアタシは魂だけこの世界にやってきたのよ」
気を鎮めるためにぬるくなったハーブティーを飲み干し、ローラはグルグルと混乱する脳内を整理しながら口を開く。
「つまり先生のお体は、向こうの世界にあるということですか」
「そゆこと♪ 幽霊みたいなものね」
貴方のような幽霊がいるものですか。
目の前で両手を前に出して幽霊の真似事をしている生命力が溢れ弾けている教育係へのツッコミを胸中にそっとしまう。
「多分、転移した先の、高濃度の魔力を取り込んだのよ。 そのおかげでアタシはこの世界での仮初の実体を持てたの」
「……聞いたことがあります、私の祖先にあたる花の精霊は強力な魔力を得て実体化したと……」
「アタシもブロッサム前伯爵からその話を聞いて確信したわ。 それと同時にタイムリミットが有ることもね」
「どういうことですか……?」
モモが自分の掌を見やる。
褐色の大きな手は今は透けてはいないが、その瞳にはまるでその下の机が透けて見えているかのようだ。
「今のアタシはこの世界の魔力に適応した言わば精霊みたいなもの。 勿論不完全な状態だから長くは存在できないわ」
「……まさか」
「そう、少しずつ魔力が枯渇して肉体を保てなくなる」
そして、魂だけになれば肉体に戻れずに消滅してしまうだろう。
それは同時に、あちらの世界にあるモモの肉体の死も意味する。
「そんな……」
なんて過酷な運命を、この教育係は隠しながら明るく笑っていたのだろうか。
身を震わせながら絶句する教え子に、向けるモモの瞳は穏やかだ。
「大丈夫よ、アタシは消えたりしない」
「先生……」
「アナタの今後の憂いになる遺恨はしっかり断ち切るから、安心しなさい」
「でも……」
「教師は教え子の進みたい道を切り開くのもお仕事よ♪ 例えその先に別れが待っていたとしてもね」
モモに残された道は帰還と消滅のみ。
それはローラにもよくわかっていた。
「……あと、どれくらい此処にいれるのですか?」
「保って一週間、もしかしたら三日もいれないかもしれないわ」
三日後、その日はオータムナル王太子の誕生を祝う盛大なセレモニーの日だ。
そして、王太子妃を正式に決定する日でもある。
「三日後のセレモニーの日はオスマンサス侯爵夫人もリコも来る、『白鳥』も必ず何か仕掛けるはずよ」
モモの目が鋭くなる。
それは決意を固めた覚悟の光を宿していた。
「この日に決着をつけるわ、それがアタシの役目だから」




