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眠り姫病

 『眠り姫病』は、一ヶ月ほど前から王都で発生している原因不明の病だ。

 ある者は夜眠りについてから起きなくなり、ある者は急に昏睡状態となる。


 「確か、患者が若い女の子ばかりで貴族のお嬢様も何人か倒れてるって、スプリンダ領で聞いたことがあるわ」

 「もう、向こうにも話が行ってるのね……」


 身体に不調が有るわけではなく、ただ眠り続けるだけ。

 しかし、食事も殆ど取れない身体は徐々に衰弱していき、先日平民で死者が出たという。


 「何かしらの魔法が使われてる可能性が有るって国でも調べてるらしいが、今のところ何にも分かってないって兄上が言ってたぞ」

 「らしいわね」

 「今じゃ貴族のご令嬢達はどこで狙われるか分からねぇから、防御魔法が使える魔法使いなんかを護衛に付けてるって聞いたぜ」

 「そう、それでアタシが護衛も兼任してるってワ・ケ♪」


 にこやかなモモの言葉に、ジョージが顔を顰める。


 「確かに肉弾戦はそこそこ出来そうな体付きはしてるが……お前、魔法使えるのかよ」

 「ええ、これでも火炎系の魔法にはちょーっと自信があるのよ?」

 「は? 自然系魔法を使えるのか!?」

 「うふふ、周りに知られると面倒だから三人だけの秘密よ♡」


 パッチンと片目を閉じて、モモが華麗なウィンクをジョージに投げる。

 瞼のヴァイオレットが鮮やかだ、ジョージは見るからに嫌そうな顔をしている。

 もしそうだとしたら、爵位を与えられるどころの騒ぎではないだろう。

 ローラが知る限りでも、自然を操る魔法を使えるのは一人しか居ない。


 「お前……ハッタリじゃないなら滅茶苦茶騎士団が欲しがる人材だぞ」

 「やだありがと♡ 騎士団のマドンナになるのも悪くはないけど、今はこの子(ローラ)の先生が良いわ」

 「いや、マドンナは無理だろ」


 ウフン、としなを作って微笑んでみせるモモにゲンナリした顔でツッコミを入れたジョージが、ローラに向き直る。


 「ただでさえお前は無理をしすぎるんだ、青い顔しやがって。

 少しは自分を大事にしろ」


 ローラの瞳の色とはまた違う、澄み渡った夏空のような青の瞳が真っ直ぐにローラを射抜く。


 (ジョージは昔からぶっきらぼうだけど、優しいわ)


 幼馴染の優しさにローラは少しだけ表情を緩める。

 けれどやんわりと首を振り静かな声で答えた。


 「大丈夫、これくらい出来ないと王太子妃にはなれないわ」


 ジョージが顔を顰める。

 きっと優しい幼馴染は心配してくれるだろう。  

 けれど、ローラは立ち止まれない。


 「そんなに、王太子妃になりたいのかよ……」

 「それがブロッサム家の繁栄のためなら」

 「そうじゃなくてっ……いや、なんでもない」


 ジョージも、そしてローラも分かっている。

 自分たちが貴族の子であることも、心地よい幼馴染の関係をもう続けられない立場に在ることも理解はしていた。

 あんなに近くに居たはずのジョージが、他人行儀な礼を取るのがどこか物悲しい。


 「……馬車まで送る」

 「……久々に話せて楽しかったわ」


 案内をするために目の前を歩く、昔よりも広くなった背中を見つめながらローラは手のひらをそっと握り締める。


 (昔のように私の庭で遊んだり、笑いあうことは出来ないのかしら)


 頭の春咲花が、ローラの心を表すかのようにはらりと散る。

 その後ろ姿を、モモと庭の白薔薇だけが見つめていた。

 

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