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ジョージ・サンフラワー伯爵令息

 ジョージ・サンフラワーはシーズニアの海岸部を領地とする海と交易に強いサンフラワー伯爵家の次男坊である。

 祖父であるブロッサム前伯爵とサンフラワー前伯爵が親友の間柄であり、親子三代で交流が続いている。

 ジョージはローラと同い年であり、物心ついた頃から何度も会っている唯一の気の置けない同世代であった。


 「成る程、功績を立てるために騎士を目指してるの。

 若いのに将来の事を考えてて偉いわぁ」

 「別に、偉くも何ともないよ」

 「この国では当たり前の事よ、先生」


 この国では、長男以下の男の立場は弱い。

 サンフラワー家自体は長男であり文官として城勤めをしている兄のソーラが継ぐことになっており、ジョージは騎士として名を挙げるべく今は従騎士として雑用や正騎士達のお供などを任されているようだ。


 「騎士になって武勲を挙げれば領地や爵位を与えられるのも夢じゃねぇからな、立身意欲の強い奴は皆躍起になってるぞ」

 「そう……あまり無理はしないで頂戴」

 「おう、俺の運動神経舐めんじゃねえぞ」


 ニシシと笑う姿は年相応の男の子だ。

 騎士のようにスマートに畏まった姿より、この悪童めいた笑みのほうがローラには安心感が持てた。


 「それにしても、ローラのお祖父様も随分思い切った事したな」


 ジョージがジロリとローラの後ろを歩くモモへと奇異そうな目を向ける。


 「あらァん、焼け付くような熱視線ねェ」

 「ちげーよ、こんな珍獣を送り付けるなんて何考えてんだって言ってるんだよ」

 「ンーま! こんな思慮深い美貌の淑女に向かって珍獣だなんて失礼しちゃうわねっ」

 「お前のような屈強な淑女が居てたまるかよ!

 騎士団でも中々お目に掛からねえ上腕筋しやがって!」


 くねくねとしなを作るモモの様子に、警戒しているのかジョージが噛み付く。

 モモは特に気にしてはいなさそうだが、ここは取りなさなくてはとローラが助け舟を出す。


 「ジョージ、モモ先生は魔法の腕も確かだしお祖父様が認めている客人なのよ、悪しざまに言ってはいけないわ」

 「……おう」

 「えっと……ごめんなさい、ジョージったら昔から口が悪いの。 それに先生のお肌や髪の色艶はこの国に無いものだから珍しい獣と例えるのも表現としては悪くない……のかも……」

 「ローラ、大丈夫よ。

 貴方も、ローラが心配だったのよね?」

 「……」


 差し出した船は泥舟だったようである。

 モモが浮かべる笑みはまるで、幼子を諭すような慈愛に満ちたものだ。


 「騎士団の庭がどんな感じかアタシすっごく気になるわ、連れてってちょうだい!」


 きまりが悪そうに黙してしまった二人に、あえて空気を変えるようにパンと手を叩き、モモは本来の用件を促した。


◆◆◆


 詰所の内部に作られた庭園は、兵士の憩いの場や軽い準備運動などを行う場として造られており貴族や王宮の庭のような華美さはない。

 手入れが行き届いた芝生が青々と広がり、其処此処に談話する騎士たちの姿も見かける。

 男所帯であるこの場所で、唯一の華やかさはこの国を象徴する花である薔薇である。

 騎士たちの高潔な魂を表すかのように咲く純白の薔薇は品の良い甘やかな香を放っている。


 「……これは」


 とある一角を案内されたローラは、眉を潜める。


 「完全に枯れちまったものはこっちで切らせてもらった、満開にはちと早かったと思うんだけどな……」

 「ここいら一帯全部元気が無いわねえ、アタシは植物には詳しくないんだけれど、どうなの?」

 「……」


 昨日と全く同じだ。

 一部だけならまだ分かるが、一株全てが……しかもそれが複数が一夜のうちに枯れ果てるのはさすがにおかしい。

 ローラは膝を折り、棘に気をつけながらそっと茎や葉の様子を見る。

 芝生にドレスの裾が広がり、見かねたモモがその端を花嫁のベールを持つかのごとく、そっと持ち上げた。


 「虫や病気の兆候も見られないわ……嫌ね、他の花はなんともないのに」

 「王宮でも薔薇の花が急に枯れたんだろ?

 まるで薔薇の生気だけ好んで吸い取ったみたいだ」

 「……どうしてかしらね」


 一瞬、モモの表情が険しくなる。


 (……モモ先生、どうしたのかしら)


 ジョージの何気ない言葉に、モモには何か思うところがあるようである。

 ちらりとモモとジョージを一瞥したローラは、迷うことなく枯れかけた薔薇の木々に手をかざした。

 萎れた花や蕾は、このまま放置すれば枯れ果ててしまうだろう。

 ゆっくりと体内の魔力が巡り、薔薇の茎を通して花々へと通していく。

 ローラの描いたイメージ通りに、薔薇の木々は少しずつ元気を取り戻し、純白の花弁を美しく開いた。


 「これが、アナタの魔法……綺麗ね」


 ローラの魔法を初めて目の当たりにしたモモが、感嘆したような溜息をつく。


 「別に、大した魔法じゃないわ」

 「自然を操る魔法はここでは希少なんでしょう?

 凄いじゃない!」


 純粋に褒められるなんて、何時ぶりだろうか。

 むずがゆい気持ちを表すかのようにように、ローラのこめかみから咲いている花々に、ぽんと一つ小さな花が加わった。

 上手く笑えずにそっと目を逸らすローラに代わり、ジョージの空色の瞳が優しく細められる。


 「こいつのひいひいひい婆ちゃんが花の精霊とのハーフで、ローラはちょっと先祖返りしてるんだとよ」

 「まあ、前伯爵から話は聞いていたけれど、ロマンチックじゃない!」

 「そうか? どうも見慣れてるからロマンも何も感じねえな」


 幼い頃からローラの『花を咲かす魔法』を見ているジョージは、事も無げに軽く言い放った後、ローラに低い声で告げた。


 「……あんまり自分を安売りするな。

 お前まで『眠り姫病』に掛かったらどうするんだ」

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