番外編:教えて♡ローラ先生〜シーズニアの魔法について〜
「そういえば、この世界の魔法ってどれくらいの種類があるの?」
マニキュア作りを小休止し、焼き菓子と紅茶でのんびりと午前中のティータイムの最中、ふと口を開いたのはモモだった。
「種類なあ、普通に使ってるからそこまで考えたこと無かったぜ」
「この世界に魔法が有ることは知ってるけれど、どれくらいの種類が有るかとかは、アタシ知らないのよねン」
紅茶とフィナンシェを片手に言葉を交わすモモとジョージを眺めながら、ローラは一口紅茶を音もなく啜る。
「……大まかには、二つに分かれますね」
「確か、『一般魔法』と『家系魔法』だったかしら?」
「ええ、『伝達魔法』やジョージが昨日使った『攻撃魔法』なんかは貴族が使う一般的な魔法です」
シーズニア王国では、貴族のみが魔法を使うことができる。
家系が古い家の者には、「魔法を使えるからこそ貴族である証明だ」と言ってのける者すらいるくらいだ。
それくらい、魔法が使えるということは、貴族にとってはステータスとなるのである。
「つまり、魔法が使える貴族なら使えるのが『一般魔法』というわけね。 他に『一般魔法』は何が有るの?」
「……そうですね」
教育係の問いに少し考えたローラが、傍らに置いてあったガラス瓶を持ち上げる。
掌に乗せたそれをもう片方の手で包み込み、そっと魔力を流す。
手をどけると、そこには二回り以上小さくなり『小瓶』と呼んで差し支えない大きさになった瓶が転がっていた。
「魔力のコントロールは相変わらず上手いな」
「ありがとう、こんな感じでものを拡大したり縮小したりすることも出来たりしますよ」
「へぇ〜、便利ねェ」
興味深そうに瞬きをするモモに、ローラはゆるりと頷く。
「小さくして持ち運んだりするのに便利ですよ。 まあ、生物には使えないですけれど」
「ふうん、アタシも出来るかしら」
自らの手には些か小さく見えるティーカップを見下ろしながら、モモはいたずらっぽく黒い瞳を細める。
そして、おもむろにティーカップを片手に乗せるとギュウと力を込めた。
「ムウゥ……ン」
「……!?」
低く野太い唸り声と共にドレスに包まれた二の腕が、ムキイッと盛り上がる。
その異様な光景にローラとジョージは息を呑む。
モモが手を離せば、そこにはミニチュアサイズにまで縮小されたティーカップが転がっていた。
「ふうー、アタシでも出来そうわね♪」
「よ、良かったですね……」
「アンタがやると、もはや圧縮だな……ウチの茶器を割る気かと思ったぜ」
「分かってるわよォ、ほーら元通り♡」
ミニチュアと成り果てたティーカップを両手で包めば、あっという間に元通りになる。
(まるで奇術師みたいだわ)
つくづく、底の読めない人物である。
王宮付きの魔導士に召し上げられてもおかしくない実力の持ち主なのに、伯爵令嬢の教育係をやってるのが不思議だ。
「……それで、『家系魔法』はローラの『花を咲かせる魔法』、あとは俺んちの魔法なんかが当てはまるな」
『一般魔法』と違い、『家系魔法』は使える者が限られている。
特に自然を操る魔法や治癒魔法などは使える者も少なく、扱える令嬢が現れた場合は王太子妃候補に選ばれる決まりが有るほど希少なのだ。
「ふゥん、話を聞く限りは『魔法』というかは『異能』みたいね」
「確かに、そう捉える事も出来るかもしれないわ」
表向きには『花を咲かせる魔法』と呼ばれているが、実態は植物全般を操れるものだ。
モモの言う通り、『異能力』と呼ばれても大差ないのかもしれない。
「ブロッサム家には異種婚姻譚が有るのよね、それも魔法と関係性があるのかしら」
ローラの祖父の曽祖父にあたる数代前のブロッサム伯爵は、スプリンダ領の森に暮らしていた花の精霊と恋に落ち、娘をなしたという。
以降、ブロッサムの直系の者は花の精霊と同じ白銀の髪と青い瞳を持って産まれてくる……と言われている。
「そうですね……お祖父様のお祖母様も植物を操る魔法を使われていたらしいので、女性にのみ遺伝しているのかもしれませんね」
「へえ、ロマンチックね」
ローラの頭に咲く春咲花は精霊の血が色濃く出ている証なのだという。
発現した力により嫌な思いもしたが、それでも庭づくりというかけがえのない生きがいが出来たのだから良しとしよう。
「アタシのこの力も、この世界では『家系魔法』扱いになるのかしら」
「アンタの他にも、めちゃくちゃな魔法を使う奴が居るのかよ」
「めちゃくちゃとは失礼しちゃうわね……まあ、そんな人間も少しは居たかしら」
モモが少しだけ何かを懐かしむような、そんな穏やかな顔で笑む。
「……」
異世界からやってきた、教育係。
知れば知るほど、その素性は伺い知ることが出来ない。
当の本人は、茶化すように明るい声で楽しそうに笑うだけだ。
「もしこの世界に生まれてきていたなら、ローラのライバルになってたかもしれないわね♪」
「先生が王太子妃候補に……ということですか?」
それは、オータムナル王太子自身も含めて誰も勝てないのではないだろうか。
「……ある意味丸く収まってたかもな」
「そうかもしれないわね」
ジョージと目が合い、ふっと笑い声が漏れる。
穏やかな時間は、ゆったりと過ぎていくのであった。
明日はとあるキャラの番外編をお送りします。
ここまで読んで面白い!とおもっていただけましたら、☆を一つでもいいのでいただけると大変励みになります。




