『風花令嬢』vs性悪令嬢①
巻き毛の令嬢が、良いことを思い付いたとばかりに片頬を上げる。
「そうだゲルダ様、召し上がられないなら私達にくださいませ♪」
「……好きになさい」
他の令嬢は巻き毛の令嬢に対する呆れ半分、興味半分といったところだ。
ゲルダが、うんざりしたように首を振った。
傍に控えていたメイドが、皿にリコのクッキーを盛り付ける。
ゲルダが用意した有名な焼き菓子店のクッキーと並べるとどうしても見劣りする。
「誰か、食べて差し上げましょうよ」
「わたくしはちょっと……」
ヒソヒソと譲り合いの言葉が飛び交う。
ゲルダの言葉に感化されたのか、誰もリコのクッキーを摘む者はいない。
あからさまな嫌がらせに、リコの榛色の瞳にみるみるうちに涙がたまってゆく。
ゲルダは、能面のような顔をしながら小さく溜息をついた。
(感情を、出してはいけないとお教えしたのに……)
それでも、致し方ないとも思う自分がいることにローラは気付く。
いつもならば、被害がこちらに向かないように傍観者に徹していたであろう。
けれど、初めての茶会で総スカンに遭い涙ぐむリコが、何故か見ていられなかった。
「二枚程取ってくださる?」
しん、と周りが静まった。
隣の巻き毛の令嬢が、信じられないという顔をしているのを横目に、ローラはメイドが取り分けたリコのクッキーを指先でつまみ上げる。
少しばかり不格好だけど、温かみを感じる。
「……」
さく、と小さくクッキーを割る音が静まり返ったパティオに響く。
静かに咀嚼した後ローラは、小さな口を開いた。
「美味しいですよ」
クッキーは元々ローラの好物である。
塩蜂蜜クッキーが一番だが、このバタークッキーも中々の代物だ。
さくさくと残りのクッキーも咀嚼するローラを、周りの令嬢はぽかんとした顔で眺めるばかりだ。
「ま、まあ……変わり者の『風花令嬢』は一味違ってらっしゃるのね」
「せっかくいただいたのですから、ご相伴に預かっただけです」
「っ……ゲルダ様のお言葉を聞いていなかったの!? この女の作ったものは信用ならないとおっしゃられたのよ!」
なんという飛躍の仕方だろうか、ゲルダはそこまで言ってないだろう。
「彼女にそんな器用な事は出来ません」
「はあ!?」
巻き毛の令嬢が訳がわからぬとばかりに目を剥く。
言葉選びに失敗した、とローラは内心頭を抱えつつ言葉を続ける。
「……パンプキンス男爵令嬢は素直な人です。
毒や呪いを盛るような方ではないと、私は思っています」
それは、何度かリコと話してローラが感じたことだ。
彼女もまた、謀り事には向いていない。
「……!」
リコの顔が、僅かに輝く。
顔を真っ赤にした巻き毛の令嬢が何かを言おうとして、ゲルダが制止をかけた。
「確かに、パンプキンス男爵令嬢ではそのような謀り事は出来ないわね」
「ゲルダ様……!?」
「……見苦しくてよ、イースター伯爵令嬢」
緑の瞳が、鼻白んだように細められる。
巻き毛の令嬢は、唇を噛みつつその場で俯く。
他の令嬢もまた、そろそろとリコのクッキーを摘み始める。
リコは、少し安心したような顔でローラに軽く会釈をし、席に着いた。
(……さて)
贈り物を渡せていないのは、ローラだけだ。
腰と椅子の間に置いていたバッグを抜き取り、アンのラッピングしてくれた包みを取り出す。
「スノードロップ公爵令嬢、私も……!?」
立ち上がろうとした瞬間、下からの強い力にローラはバランスを崩す。
誰かにドレスの裾を踏まれた、そう理解したと同時に視界が横転し、全身に激しい痛みが襲った。
ローラ大ピンチのまま明日へ続きます。
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