ローラの『闘い』
『お茶会は女の戦場だ』、ジョージの物言いにはつい笑ってしまったが、解釈は概ね合っていると思う。
茶会は情報交換の場であり、家格の見せつけ合いであり、それぞれの思惑が錯綜する。
(こういった場を得意なご婦人もいるけど、私は本当に苦手だわ)
元々少食であるローラは食を楽しむことも殆どできず、話すタイミングを計っているうちに会話らしい会話もせずに終わることが多い。
最初は「奥ゆかしい」とか「恥ずかしがりやなのね」と好意的に取られていたが、次第に「冷たい」「お高く止まっている」と陰口を叩かれるようになっていた。
顔周りをふわふわと行き来するパフがくすぐったい。
「おしろいは化粧崩れの防止のためにちょっとだけ……ほら、出来たわよ」
モモの穏やかな声に瞳を開ければ、ドレッサーの向こうにはいつもよりも血色のいい、キラキラとした顔の自分とにこやかなモモの姿があった。
「お化粧係をモモ様にお任せして正解でした」
「とても綺麗ですよお嬢様!」
「大役を任せてくれてありがと♪」
ローラの部屋の入り口には、ドレスの着付けをしてくれたメアリーとアンが立っている。
今まで化粧を施してくれていたメアリーは、少し寂しそうだが後悔は無さそうな顔をしていた。
訪問着用のラベンダーピンクのドレスは首元は空いているが、夜会用のものほど露出は少ない。
その首元には、先日ジョージから贈られたパールシェルと春咲真珠があしらわれたバックリボン・ネックレスが飾られている。
「いただいたアクセサリーも、ドレスによく似合っていますよ」
ネックレスに付いたピンク色の大きなリボンが映えるように、髪も珍しく結い上げられている。
春咲花が咲いているローラには、髪飾りは不要だ。
「アタシの持ってるコスメを総動員させたわ、名付けて『清純お茶会メイク』よン♡」
瞼にはピンクの煌めきが乗せられ、長いまつげはくるりと上を向いてカーブを描いている。
化粧品があまり発展していないシーズニアの貴婦人から見れば、ローラの可憐で斬新な装いは注目を生むだろう。
「先生ありがとう、自分じゃないみたいだわ」
「アナタの素材がいいのよ、楽しかったわ」
そして、手を掲げれば指先を彩るパールピンクが、陽光を受けてきらりときらめく。
ローラはそれを穏やかな顔で眺めた後、白の手袋をそっと付けた。
「今は手袋しとくのね」
「お茶会のマナーだから」
お茶会や人前に出るときは、手袋を付けるのが淑女のマナーだ。
ゲルダに贈り物を見せるときに、手袋は外せばいい。
「能ある鷹は爪を隠す、ね♪」
「そういうものかしら」
はにかむように微笑んだローラに、アンが進み出る。
「お嬢様、頼まれたお品をラッピングいたしましたよ」
ブロッサム家の家紋を入れたリボンを結んだ小袋には、先日作り上げたネイルが二本と、ローラが趣味で作ったラベンダーの香りのハンドクリームが入っている。
「ありがとうアン、可愛く包んでくれたのね」
「えへへ、パン屋の焼き菓子を包んでたら上手くなりましたよ」
鼻をこすって得意顔なアンを労い、ローラは包みを片手に立ち上がる。
すかさず、つばの広い帽子を持ったメアリーがふわりとそれを被せた。
「準備は良いわね?」
本日、モモはスノードロップ公爵令嬢には招待を受けていない。
それでも馬車の中で、待機してくれることになっている。
モモの問いかけに、ローラはしっかりと頷いた。
「ええ、もちろんよ」
ローラの戦いが今、始まろうとしていた。




