可愛いは、作れる
翌日、モモとジョージの三人体制でマニキュア作りが始まった。
「内容としてはネバツルソウの粘液を水で薄めて、そこにパールシェルと顔料を混ぜようと思っています」
作る色は、ゲルダに似合いそうなローズピンクとローラ用のパールピンク、そしてアプリコット色だ。
「配分が難しいわね、言っちゃ悪いけどアタシもマニキュアは作った事無いもの」
「こればかりは試行錯誤するしかなさそうですね」
使用人の使う部屋を一部屋借り、テーブルに材料を並べながらローラとモモは真剣な顔で言葉を重ねる。
「このネバツルソウっていうのは薄めても大丈夫なの?」
「ネバツルソウは水溶性ですし接着剤にも使われています。
ただ、薄まりすぎると上手く固まらないかもしれないから調整あるのみですね」
「なるほどねえ」
そんな二人のやりとりを、椅子に腰掛けて暇そうに眺めていたジョージが口を挟む。
「……で、俺はなにをしたらいいんだ?」
「ジョージはパールシェルを粉末にしてほしいわ、出来るだけ細かくしてちょうだい」
「分かった、じゃあ先にやってるぜ」
役割分担を決め、早速ジョージがすり鉢とすりこぎに手を伸ばす。
「私はネバツルソウの粘液の採取をします、きっと私が採取したほうが質の良いものが出来そうなので」
「じゃあアタシは材料混ぜる係やろうかしら♪
自由研究みたいで楽しいわァ♡」
「自由研究……ですか」
「学生は夏季休暇中に宿題が出されるの、その中に興味のあるものを自由に研究して発表するっていう宿題もあるのよ」
「それはまた、楽しそうですね」
「ローラの研究発表の場はスノードロップ公爵令嬢のお茶会ね」
「……失敗出来ませんね」
そう言われるとやる気が出てきた。
ローラはネバツルソウの種を掌に乗せると魔力を流す。
瑞々しい蔓が、ローラの手の中からスルスルと溢れ出してみるみるうちに足元へと垂れ下がる。
「最初はアタシも手伝うわ、その方が早いでしょ♡」
「そうですね、手分けしてやりましょう」
採取用のナイフを片手にローラが頷く。
生き生きとした様子で蔓を切る様子を、ちらりと一目見たジョージが穏やかに声をかける。
「楽しそうだな」
言葉を受けたローラが、少しの思案の後に小さくはにかんだ。
「ええ、楽しいわ」
◆◆◆
一度目は水の配分が多くて固まらなかった。
二度目はパールシェルの配分が多くて粉っぽさが出てしまった。
試行錯誤を繰り返し、三度四度失敗を繰り返す。
そして、今は五度目の正直だ。
「……悪くないんじゃない?」
容器に混ざり合った、とろりとした粘度の液体を見下ろしながら最初に呟いたのはモモであった。
「ええ、パールシェルの艷やかさも死んでいないし、しっかり混ざり合ってるわ」
匙で試作品のマニキュアを持ち上げれば、とろりと溢れる。
ふわりと漂うのは、香り付けに入れたラベンダーの甘い香りだ。
「試しに塗ってみたらどうかしら?」
「ええ、そうね」
朝にモモの手によりネイルオフとマッサージで、指先装いを落としたところだ。
画材店で買い求めた極細の平筆にマニキュアを乗せて、モモがローラの指先を染めていく。
「……綺麗」
ローラの指先に、パールピンク色の輝きが宿る。
モモが所持していたものよりも発色は柔らかだが、それでも指先を彩らせるには十分であった。
「んまっ、初めてにしては上出来じゃない♪」
ローラの指先を覗き込んだモモが歓声をあげる。
そのまま、窓際で休息をとっていたジョージにも声をかける。
「ジョージもなんか言ってあげなさいな!」
長時間パールシェルを磨り潰してさすがに疲れたのであろう。
目が合ったジョージの空色の瞳には若干の疲弊が残っている。
「……どうかしら?」
おずおずとローラが片手を差し出せば、その指先は優美に煌めきを見せる。
「……良いんじゃねえか?」
ローラの手と顔を見比べたジョージは、少し顔を赤らめつつぶっきらぼうに一言だけ告げた。
「んまっ、素直じゃないわねェ♡」
面白そうに笑うモモの隣で、ローラは満足そうに微笑む。
素直ではないジョージから、この言葉を引き出せただけでも合格点だ。
「配合はメモしたから、あと二種類作りましょう」
「そうね、材料はまだまだ有るしもう一種類くらいなら作れそうだわァ」
「俺はもうちょい休むぜ……さすがにぶっ通しでやってたら肩と腕がだりぃわ」
この調子でいけば、夕食までには完成するだろう。
見通しは明るい、ローラは自らに気合を入れるように深呼吸し目の前の机に向かうのであった。




