頼るということ
「なーるほどねェン」
サンフラワー邸のゲストハウス、その中にあるラウンジにて声を発したのはモモであった。
あの後事後処理をジョージに任せてサンフラワー邸に戻ってきたローラは、生きた心地もしないままゲストハウスで過ごしていた。
夕方過ぎに戻ってきたジョージと夕飯を食べた後、聞かされたのが例の人攫い達の事であった。
「つまり、どこかの貴族のお偉いさんから依頼を受けた訳ね」
「ああ、どこの誰かまでは分からなかったみたいだが」
「ただの略取じゃなさそうねェ」
人攫い達はサーマ領内の港町に住まうならず者達であり、酒場でいやに品のある男からローラの略取を依頼を受けたそうだ。
かなりの大金を前払いでもらったらしく、背後に居るのは裕福な商家か貴族が居るのは明白だ。
「……それであの人達、私の顔と名前が一致していたのね」
「多分、ローラが消えて得になる家……例えばスノードロップ家やオスマンサス家が暗躍しててもおかしくはないわ」
依頼元の男の行方は分からない今、分かるのは『ローラを強制的に排除したい者がいる』ということだ。
「……」
そこに潜む冷たい悪意に、ローラはそっと自らの身を抱きしめる。
白い肌が更に青ざめてるの見たジョージが、その肩を叩いた。
「大丈夫だ、俺や先生が居る」
「そうよ、二度目はないから安心してちょーだいな♡」
「二人とも……」
自らの軽はずみな行動で、優しい二人を危険に晒してしまった事を恥じつつ、ローラはそっと頭を下げる。
「ありがとう……今は、力を貸してほしいわ」
「おう、これくらいどうってこと無いぜ」
「アタシたちに任せておきなさい」
本当に、頼もしい味方を得たと思う。
しんみりときた空気を払拭するように、モモが軽やかに手をたたく。
「あ、そうだわ。 これをジョージに渡しておこうと思って」
モモが黒いバッグから取り出したのは、先程の魔物が残した魔宝石だ。
まるで血を濃縮したような妖しい輝きを持つその紅は、見るものを惹き込む魅力が有るように思えた。
「良いのか? 換金したらかなりのレートになるし、宝飾品にしたら映えるんじゃねえの?」
「うーん、確かにこのピジョンブラッドは魅力的なんだけど、きっとこれはジョージのほうが使いこなせるだろうから、アナタに持っておいてほしいの」
「……なるほどな」
ジョージとモモの会話を聞き、ローラもまた察する。
「ジョージの魔法の事かしら……?」
「ご明察! ローラは幼馴染だから知ってて当たり前よねン」
ジョージは攻撃魔法や防御魔法などの基本的な魔法の他に、サンフラワー家の面々のみが使える魔法が使える。
「正直、騎士っていうよりも諜報役って感じもするけどな」
『音や声を魔宝石に記録する魔法』という、これまた珍しいものだが、長時間の記録やより鮮明に音や声を記録するにはより純度の高い魔宝石を要する。
また、内容的にもジョージが目指す近衛騎士には不要な魔法であり、本人的には微妙のようだ。
「正騎士候補として覚えもめでたいみたいだし、最近は先輩について王城に出入りなんかもしてるんでしょう?」
「まあな、いざとなった時にオータムナル王太子と聖女様の浮気現場でも記録しとくか」
「悪趣味ね……」
モモの掌の上だと小さく見えたが、ジョージの手の上だとそれなりの大きさである宝石だと分かる。
「まあ、使わないに越したことはねえな。 一応預かっておくぜ」
「使わなかったらアタシのネックレスにでもしちゃうわン♡」
キラキラと輝くそれを懐に仕舞いつつ、ジョージは軽く頷いた。
窓の外を見やれば既に月が空高く出ている。
ローラとジョージの肩を軽く叩き、モモが茶目っ気たっぷりに片目を閉じる。
「今日は疲れたでしょ? 明日もやる事があるんだから二人とも今日は早く寝なさいな」
保護者らしい諭すような口ぶりに、ローラの口許もほころぶ。
「そうね、先生はどうなさるの?」
「アタシは……町で気になるバーを見つけたから呑んでこようかしら♡」
「アンタはホントに元気だな……呑みすぎるなよ」
「うふん、お酒は強いから大丈夫よ♡」
どうやら見た目通りの蟒蛇のようだ。
二人の会話にころころと笑ったローラは、自室に戻るためソファから立ち上がったのであった。
次回、楽しいネイル作りとサーマ領との別れです。
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