人さらい退治と、新たな脅威
ローラを背に隠し、サーベルを構えたジョージが大きく振りかぶって振り下ろしたナイフを難なく受け止める。
「軽いんだよ!」
ナイフを弾き、がら空きになった肩口から胸にかけてを切りつける。
もう一人の刃も難なく左に上体をずらして避け、すれ違うように男の上体を切り裂いた。
「このガキ……!」
肩や上体に傷を負った男達がその場に蹲る。
一気に二人が倒され、リーダー格らしき男が舌打ち交じりにジョージを睨みつける。
準騎士とはいえ、まだ幼さの残る少年に劣勢に立たされ、苛立っているようだ。
「こっちは三人だ、やっちまうぞ!」
ローラに頭突きを入れられた大柄な男もよろよろと立ち上がり、獲物を引き抜き三人同時に走り出す。
しかし、足元を縄のような何かが絡みつき、悲鳴とともに三人揃って地面へと崩れ落ちた。
「……ネバツルソウの蔦よ」
男達の足元では先程ローラが連れ去られながらこっそりと撒いた種がローラの魔法により発芽し、長い蔦へと急成長を遂げていた。
ネバツルソウは、シーズニア全土でよく見かける生命力の強い植物であり、爆発的な繁殖力とその名の如くネバネバする粘液を茎の中に蓄えている植物である。
男の一人は乱暴に蔓を外そうと切りつけ、足が粘液塗れになってしまっている。
「ナイスだローラ!」
この隙をジョージが逃すわけがない。
サーベルを振るい魔力の刃を、立ち上がろうともがく男達に向けて飛ばせば、足を取られていた男と恰幅のいい男が、悲鳴と血飛沫を上げて倒れ込む。
「……畜生!」
刃が頬をかすっただけであったリーダー格の男が、ブーツを素早く脱ぎ去り踵を返す。
「あ、待てコラァ!」
路地に紛れてしまえば追跡は難しくなるだろう。
ジョージの怒声を聞き、倒れた男達をネバツルソウの蔦で縛っていたローラは更に別の蔦を伸ばすが逃げゆく背中には届かない。
(このままだと取り逃しちゃうわ)
その瞬間、男が突如現れた壁にぶつかった。
……否、壁のように巨大な大男に衝突したのだ。
「うわ!?」
かなりのスピードで突っ込んだにも関わらず吹き飛んだのはリーダー格の男だけだ。
「あぁん、強引なヒトねぇ♡」
暗闇から現れた『壁』……モモが黒髪を流しながらローラとジョージに微笑みかけた。
「先生……!」
「ハァイ二人とも、無事そうね」
保護者のような穏やかな瞳で二人を見た後、モモが座り込んだまま顔を青くしている男へと視線を戻す。
「誘拐だなんて穏やかじゃないわねェ?」
「も、モンスター……!」
「だーれがバケモンよ、失礼しちゃうわね。 そんなヒトは……こうよ♡」
そう言ったモモが、唇に手を触れて「チュッ」とキスを投げる。
すると赤いハートがふよふよと現れ、男の顔に張り付く。
「ぐへえぇぇー!?」
男の顔から、火柱が上がった。
そのド派手な魔法に、ジョージもローラも声も出せずに見守るばかりだ。
チリヂリに焼け焦げた髪と煤けた顔をさらしつつ、ショックを受けた男がその場で倒れ伏す。
ピクリともしない、まさか死んだのだろうか。
「し……死んだの?」
「髪をちょっと焦がすだけの見かけ倒しよん、命までは取ってないわ」
「えげつねえ……」
「ンフッ、アタシに惚れるとヤケドしちゃうぞっ♡」
ハンドバッグを片手にしなを作ったモモが、ローラの元へ近寄り、膝を折った。
「怪我がなくて良かったわ、もう一人でフラフラしちゃダメよ?」
「せ、先生……ごめんなさい」
自分の身勝手な行動でジョージとモモに迷惑をかけてしまった。
しおらしく謝るモモの頭を、ジョージが撫でる。
「無事ならそれでいい、今はこいつらを……」
そこで感じたのは強烈な殺気と、魔力反応。
ざわりと肌が泡立つと同時に、ローラはジョージに抱きかかえられていた。
「ギャアアァ!!」
後ろに飛び退ったジョージとローラが目にしたのは、巨大な異形に襲われる男の姿であった。
「あ……」
蔦に縛られ身動きが取れなかったのが致命的であった。
空からの襲撃者に選ばれた男はその鋭い嘴で腹を裂かれ、血反吐を吐きながら悍ましい断末魔を上げる。
「わ、私が縛ったから……?」
「ローラは悪くない、気にするな」
初めて見る『死』の痛ましさと、罪悪感に青ざめるローラを抱きしめながら、ジョージが被りを振る。
傍らにはモモが寄り添うように立ち、いつに無く鋭い瞳で前方を見据えていた。
「ジョージ、アナタ結界は張れるわよね?」
「結界……? 防御魔法のことか?」
「『こっち』ではそう呼ぶんだったわね、それを使ってローラを護って」
目の前に居るのは、巨大な大鷲に似た魔獣であった。
港町の近隣には魔宝石が採掘される場所があり、『ひずみ』も生まれやすい。
血の匂いに惹かれてここまで来たのであろうか、血肉に塗れた嘴を蠢かせながらこちらを見る目は血走っている。
「ローラはアタシの商売道具持っててちょーだい♡」
「先生、何をするんですか……っ」
黒いバッグからモモが引き抜いたのは二本の黒く長い『棒』だ。
放り投げるように渡されたバッグを受け取りながら、ローラは殺気と共に感じる、モモの圧倒的な闘気に気圧される。
「コイツは、アタシが相手をするわ」
ジャキッ……と金属質な音を立てて棒が扇状に開く。
ピンクゴールドに輝く、異国めいた大柄な花模様が描かれた鉄製の扇子は大きなモモの手に相応しいものであった。
「いらっしゃいな、ヒヨコちゃん。
ダンスパーティーのお時間よ」
モモの冷たい瞳が、挑発的に細められる。
異形の鳥が、けたたましく絶叫を放った。
明日はモモ先生のバトルをお送り致します!
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