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ローラ、危うし!

 楽しい時間は経つのは、本当に早い。

 土いじりの時間もそうだが、好きなものを見て購入する時間もローラは好きだ。


 休憩のために噴水のある広場を訪れたジョージは、傍らにあるベンチにローラを座らせた。


 「パールシェルも顔料も良いのがあって良かったわねン」


 お目当てであったパールシェルは、画材店に粉末にしたものも貝殻本体も置いてあった。

 多少値は張ったが、ジョージが上手く値切ってくれたため比較的安値で手に入ったのだ。


 「さすがジョージ様々だわァ」


 「おう、感謝しろよ」


 「んふふ、珍しい種や苗が沢山買えたわ……」


 「お嬢様はいつになくご機嫌ねェ〜」


 園芸品や花の種などを扱う店では、ローラの目論見通り珍しい花の種や苗があった。

 その中でのお気に入りは『キャラメル・ショコラ』と呼ばれるコスモスの一種であり、オレンジから茶色のグラデーションとその名のごとくチョコレートに似た芳香を放つ花だ。


 「図鑑で見てずーっと育ててみたいと思ったの、嬉しいわ」


 「そりゃ良かったな」


 「むふ、来年の春が楽しみ。 咲いたらジョージにも分けてあげるわ」


 「へいへい」


 春に種を撒いて適切に育てれば、来年の今頃には花をつけるだろう。

 他にも買った花の種や苗は、一部を除いて邸に送られる手はずである。


 とても楽しみだ、はしたないがニマニマが止まらないのは許してほしい。

 種の入った紙袋を抱え、ローラは上機嫌に鼻を鳴らす。


 「ローラは本当に庭づくりが好きなのね」


 「生き甲斐ですから。 咲いたら先生にも分けてあげますね」


 「……ありがとね」


 モモが瞬きをした後、少し困ったように微笑む。

 以前も、こんなやりとりをしたような気がする。

 不思議に思ったローラが口を開くよりも先に、モモが明るい声を上げた。


 「あらやだァ、いい匂い〜♪ あっちにエビの串焼き売ってるわァ、おやつに食べましょう♪」


 「間食にはヘヴィすぎねえか?」


 「おやつは別腹よォ、ローラも食べるわよね?

 モモ先生が奢っちゃうわ♪」


 言われてみれば、海鮮を焼くいい香りが其処此処から漂っている。

 大きな貝の壷焼きも、背中を丸めた海老を三匹ほど串刺しにした串焼きもどれも美味しそうだ。


 「しゃーねえ、ローラはそこに居てろよ?」


 「わかったわ、これは絶対守るから」


 「いや自分の身を守ってくれ、ちょっと待ってろよ!」


 開けた広場ゆえ、何かあっても大丈夫だと判断したジョージがモモの背中を追う。


 潮を含んだ港の風が頬を撫でる。

 暖かな日差しに目を細めたローラは、ふと視界の端に店が出ていることに気付く。


 (観葉植物かしら)


 小さな珍しい植物を売っている露店だ。

 図鑑でしか見たことがないが、あれは乾燥した暑い地域で育つ多肉植物ではないだろうか。


 「……」


 ちょっとだけ、ちょっとだけなら。

 そわそわと辺りを見渡したローラは、ゆっくりとベンチから立ち上がり露店へ向かう。

 路地を横切ろうとしたその瞬間、太い腕がローラを捕らえて引き摺った。


 「!?」


 突然の事と、あまりの力に対処しきれなかったローラが路地裏に消える。

 細い令嬢の身体を後ろから抱きすくめるように押さえつけ、口を塞ぐのは小汚い格好の男であった。


 「フローラ・ローラ・ブロッサムだな」


 「……!」


 「お嬢様には恨みはねえが、俺達と来てもらうぜ」


 周りにも仲間らしき男達がいる。

 その数は、全部で五人。

 リーダー格らしき男がローラの顎を掴み、不躾に上へと向かせる。


 「むぐっ……」


 「これが『風花令嬢』ねえ、春の妖精みたいな顔してとんだワガママ娘なんだってなあ、アンタ」


 「まあ、バチが当たったと思うんだな」


 力任せに路地の奥へと連れて行かれる。

 抵抗しようにも、か弱い令嬢にはどうすることもできない。

 何故この男たちは、ローラを狙っているのであろうか。


 「面はお綺麗なんだから、『向こう』でも可愛がってもらえるだろうよ」


 「……っ」


 男達の会話に血の気が引く。

 この国では奴隷制度は廃止されているが、それでも異国に売り飛ばされる者も秘密裏に居るのが現状だ。

 どうやらこの男達もそのような腐った連中のようだ。


 だらりと伸ばした手をぎゅっと握る。

 足元から魔力を流すような、そんなイメージを描きながらローラは青い瞳を険しく細めた。


 その刹那、軽やかな足音と共に聞き親しんだ幼馴染の声が響いた。


 「テメエら、ローラに何しやがる!!」


 怒声と共に、サーベルを抜いたジョージが素早く刀身を振るう。


 飛ばされたのは、ジョージの魔力を具現化させた鋭い刃だ。

 騎士ならば誰もが会得している『一般的な攻撃魔法』だ。


 「うわっ!」


 「もう追い付いてきやがった!」


 魔法の刃を受けた最後尾の男が悲鳴をあげ、ローラを拘束していた男が動揺したように叫ぶ。

 一瞬、拘束の手が緩んだ隙を見逃さなかった。


 「むぐぅ!」


 「んゴォ!?」


 恐怖に戦慄く膝のバネを利用して、男の顎目掛けて思い切り頭突きを入れる。

 頭に鈍痛が走るも、相手へダメージはしっかり入ったようだ。

 身長差が功を奏し、脳を揺らされ蹲る男から抜け出して、ローラは必死に地を蹴り走った。


 「ジョージ!」


 飛び込んできたローラを抱きとめたジョージが、ほっと安堵した顔を見せる。

 どうやら、ローラが地面に落とした種を発芽させたのを見てくれていたようだ。


 「怪我は無いか?」


 「ええ、ごめんなさい」


 「説教は後だ、下がってろ!」


 そう言い終わるか否かのところで、男の二人が大ぶりなナイフを抜きジョージに襲い掛かった。


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