いざ、サーマ領へ!
サーマ領はシーズニアの海岸部にある港町を拠点とした、観光と交易の要である。
特に夏場は観光地として賑わいを見せる、スプリンダ領とは違う魅力を持つ土地だ。
そこを治めるサンフラワー伯爵はローラの父の幼馴染であり、幼い頃から家族ぐるみの付き合いがある。
「……まさか息子とローラ嬢が、空からやってくるとは思ってもみなかったぞ」
「お騒がせしました……」
「お前も事前に言っておいてくれ」
「悪かったよ、親父」
休憩を挟みつつサンフラワー邸についたのは昼前であった。
ローラはともかく、長時間モモにしがみついていたジョージは大分疲弊したようで、今もぐったりした顔で父であるサンフラワー伯爵の小言を受け流している。
サンフラワー伯爵は、ローラの父であるブロッサム伯爵と同年代で親友の間柄だ、穏やかでフランクな人物である。
「んま、海が見えるわ。 オーシャンビューが臨めるお部屋なんて素敵ね♡」
そんな中モモは変わらず元気である。
飛行中風魔法と視認遮断の魔法に加えて、火炎魔法を応用してローラ達が凍えないように暖めるという人間離れした荒業をやってのけていたが、疲れた素振りは殆ど無さそうだ。
「三日間お世話になります」
「ゲストハウスに部屋を用意してあるから、ゆっくり寛いでおくれ」
穏やかに目を細めるサンフラワー伯爵に、ローラは静かに一礼する。
「ありがとうございます、早速ですが街へ出てみようと思います」
「元気だなお前……」
「パールシェルを早く手に入れたいのよ、あと顔料と花の種も見たいわ」
「最後は私欲だろ」
港町では王都には中々流れない異国由来のものもある。
今、ローラが邸の庭で育てている『夜に咲く花』も異国の花だ。
「失礼ね、ちゃんと目的があるわよ」
「分かってるよ、そうむくれるな」
む、と口を尖らせるローラにジョージが肩をすくめる。
二人の様子を微笑ましく眺めるサンフラワー伯爵に、声をかけたのはモモであった。
「急で申し訳ないのだけれど、馬車をお借りできるかしら? さすがに長時間空を飛ばすのは可哀想ですわ」
「貸すのは構わないが、荷物持ちなどは不要かな?」
「アタシやジョージも居ますから平気ですわ」
伯爵令息を荷物持ちの頭数に入れるあたり、本当に図太いといえよう。
サンフラワー伯爵も苦笑しているが、気を悪くはしていないようだ。
「愚息でよければ幾らでも使っておくれ」
「ひでえよ親父」
クスクスと笑い合うジョージと伯爵はやはり親子だ、笑った顔がそっくりである。
「それじゃあ行きましょうか」
「おう、案内してやるよ」
ちらりと窓の外を見るとのどかな海の景色が見える。
どのような花の種が売られているだろうか、ローラは一人心弾ませるのであった。
◆◆◆
サンフラワー邸は、サーマ領で一番栄えているこの大きな港町の中にある。
貴族の別邸や宿泊用のリゾート施設などがある区域を抜ければ、活気のある商業区域の空気が潮風とともに流れ込んでくる。
「凄い人だわ……!」
馬車を降りたローラは、王都とはまた違う街並みや人々の行き来を感嘆したように眺める。
余所行きのワンピースから動きやすいシャツとロングスカートという格好に着替え、長い髪を麦わら帽子の中に纏めたローラは一見すれば避暑にきた令嬢に見えるだろう。
「賑やかねえ、こういう雰囲気アタシ好きだわァ♡」
モモもまた、いつもの派手な格好ではなくシャツにロングスカートといういでたちだ。
ただしスカートには深いスリットが入っており、ガーターベルトで吊ったタイツに包まれた、セクシーな太腿が見え隠れしている。
「とりあえず、パールシェルを見に行くぞ」
「バザールに行くの?」
「午前中だったらそれも悪くねえが、今なら店を当たったほうが粉末か粉末にする前のやつが置いてると思うぜ」
「あらん、残念ねェ」
港に近い場所では屋外式のバザールが沢山出ており、掘り出し物が眠っていることがあるのだ。
「露店ならそこら中に出てるし、気になるものが有ったら教えてくれ」
「わかったわ」
「人が多いからはぐれないようにしろよ、特にモモ」
「んま、心配してくれるのねン♡」
モモはこの街に訪れるのは初めてだ。
ぶっきらぼうだが気にかけてくれているジョージに、モモが嬉しそうにウインクを飛ばす。
「それじゃあ、案内をお願いするわ」
「よし、任せとけ」
「逸れないように手を繋いであげたらどう?」
「バーカ、ガキじゃねえんだから」
呆れたようにちらりとこちらを見る空色の瞳は、変わらぬ優しさを秘めている。
前後から飛び交う軽口の応酬にも慣れた、むしろ微笑ましいくらいだ。
ローラはくすりと一つ微笑むと、ジョージの後ろをついていった。




