楽しいおでかけ
目当てのものを無事に買い求め、ローラ達が再び馬車に乗ったのは、昼前であった。
「欲しいものが有って良かったですね、お嬢様!」
「ええ、本当に」
質の高いスイートオレンジの精油と、しっかりとした造りのガラス瓶、その他諸々をモモに任せローラは再び馬車に揺られていた。
イチゴの種は手に入れられなかったが、まあ良しとしよう。
「はァーい二人とも、水分補給タイムよォ♡」
「あら、ありがとう」
「私まで良いんですか?」
「ええ、暑いんだから水分は取っておきましょうね」
モモがハンドバッグから取り出した瓶詰めの水を受け取ったローラは、礼を言った後にこくりと一口飲み込む。
常温の水だが、ミントとレモンの香り付けがされており、飲みやすい。
「美味しい、喉が渇いていたから助かるわ」
「メアリーから預かってたのよ。 冷えていたら最高だったんだけど、一気に飲んで身体が冷えたらいけないからあえて常温にしてるわよン♪」
「さすが叔母様だわ〜気が利くぅ」
御者が馬を上手く繰っているため、揺れは少なく快適である。
今、ローラ達が向かっているのは王都内でも有名な洋菓子店だ。
「夏の新作のタルトが話題になってるんですよ、あまーい異国の果物とほろ苦いタフィーが絶妙にマッチしてるんですって!」
「王妃様のお茶会でも話題になってたわよね、連日カフェテリアは貴族のお嬢様やご夫人で満席なんだとか」
そういえば、先日の茶会でスノードロップ公爵令嬢のご友人達がそんな話をしていたような気がする。
モモから話を振られたローラは、こくりと頷きひっそりと微笑んだ。
「私は、塩蜂蜜クッキーを買えたらそれで良いのだけれど」
「お嬢様、お好きですもんね」
ジョージが見舞いに持ってきてくれた塩蜂蜜クッキーも、この店で焼き上げた逸品だ。
スプリンダ領の蜂蜜とサーマ領の塩を使ったそれは、今は亡き母とおやつの時間に食べた懐かしい味でもあった。
「あ、着きますよ」
洋菓子店の看板が見えてくる。
併設しているカフェテリアには、思い思いにお洒落をした婦人や令嬢が甘いスイーツを突きながら話をしたり幸せそうに顔を綻ばせている。
降りる支度をしようとしたローラを、モモの大きな手がやんわりと制した。
「待って」
モモの視線の先、窓の外を見やるとそこには顔見知りの姿があった。
「……王太子殿下と、パンプキンス男爵令嬢」
目を引く輝くばかりの金の髪を、見間違う訳が無い。
婚約者であるオータムナル王太子と、その『友人』であるリコがカフェテリアの一角のテーブルに就いていた。
マロンブラウンの清楚なワンピースに身を包んだリコとそれに合わせたシンプルながらも仕立てのいい衣服に身を包んだ王太子は、何やら話しながら幸せそうに微笑みあっている。
「まるで、逢引ね」
見たところお忍びでの逢瀬といったところか。
髪を三つ編みに編んだリコが、流行りのタルトを食しているところを王太子は慈しむような目で見ていた。
「ローラ……」
「残念だけど今日はやめておきましょう」
人目を忍んでいるつもりかもしれないが、王族の輝くような金の髪は目立つ。
そこに婚約者であるローラが店内に入れば、好奇の目にさらされる可能性は低くはない。
逃げるようで癪ではあるが、これ以上の醜聞は避けたい所だ。
「塩蜂蜜クッキーは、また今度買えばいいわ」
「なんならアタシが幾らでも出してあげるわよ」
傍らでローラの様子を見ていたアンが、そっと手を挙げる。
「あの、もし良かったらウチの店に寄っていかれますか? お洒落なタルトは無いですけどマーマレードのデニッシュや夏野菜とスパイスを使った美味しいキッシュなら有りますよ」
気を使ってくれているのだろう、そわそわと落ち着かない顔のメイドの優しさに、ローラは少しだけ元気を取り戻して頷いた。
「そうね、それじゃあその美味しいキッシュを楽しみにしようかしら」
御者に行き先の変更を告げると、馬車は再び動き出す。
幸せそうに王太子を見つめているリコの横顔を一瞥したローラは、そっと窓から視線を外したのであった。




