↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋愛台帳、時代ズレにつき修正不能  作者: サザルト
第1章 すれ違い編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
96/227

第96話 主語が足りなかった話

■駅前


 休日。


 駅前は、人通りが多かった。


「……」


 白石ひなたは、きょろきょろと周囲を見回していた。


 スマホの画面を確認する。


 そこに映っているのは、姉のロック画面だった。


 正確には。


 そこに偶然写り込んでいた、ひとりの男子の顔。


(たしか、この人が)


 朝比奈恒一。


 姉が最近、妙に反応する相手。


 名前を見ただけで止まる。


 話題が出ると、少し静かになる。


 何かを聞こうとしても、すぐに誤魔化す。


(なんとかしたい)


 妹として。


 かなり本気で、そう思っていた。


 だから、休日の駅前まで来た。


 高校付近で探すのは難しかったが、駅前なら会えるかもしれない。


 そう思って歩いていた、その時。


「あ」


 少し離れた場所に、見覚えのある顔があった。


 背は高め。


 少しぼんやりした顔。


 けれど、写真と同じだった。


「朝比奈先輩!」


 呼びかけると、恒一が振り向いた。


「……?」


 恒一は、少しだけ首をかしげる。


 一年生くらいの女子。


 どこか白石ひよりに似ている。


 けれど、近くで見ると確かに少し違う。


「はじめまして、白石ひなたです!」


「ああ」


 そこで、恒一の中で繋がった。


「白石の妹だっけ?」


「はい!」


 ひなたは勢いよくうなずいた。


 少し緊張していた。


 けれど、止まれない。


 ここで止まったら、たぶん言えなくなる。


「お願いがあります!」


「?」


 恒一が待つ。


 ひなたは息を吸った。


 そして、勢いのまま言った。


「デートしてください!」


 一瞬。


 駅前の空気が止まった。


 近くを歩いていたカップルが、ちらっとこちらを見る。


「……」


 恒一も止まった。


 数秒間、本気で考える。


 それから、真面目な顔で聞いた。


「……ひなたと? ひよりと?」


「あっ」


 ひなたの顔が、一気に赤くなった。


「ち、違います!」


「違うのか」


「いや、違わないです!」


「……」


「姉とです!」


「なるほど」


 恒一は納得した。


 一方、ひなたは心臓がうるさかった。


(主語忘れた……!)


 やってしまった。


 いきなり知らない男子に、デートしてくださいと言ってしまった。


 しかも駅前で。


 でも、恒一は特に気にした様子がない。


「デート?」


「はい!」


 ひなたは慌ててうなずく。


「姉、最近ちょっと元気なくて!」


「……」


 恒一は少し考える。


 白石ひよりの顔を思い出す。


 静かで。


 どこか、いつも少し距離を取っているような後輩。


「公開告白の話か?」


「うっ」


 ひなたが止まった。


 図星だった。


「……ごめんなさい」


 しゅんと肩が落ちる。


「姉のためにやったんです」


「……」


「いいことあると思って」


「……」


 恒一は少し考えた。


 ひなたが本気だったのは分かる。


 悪意もない。


 むしろ、姉思いなのだろう。


 やり方は、かなり大きく間違えているが。


「白石は優しいな」


「……え?」


 ひなたが顔を上げる。


「妹としては立派だと思う」


「……」


 ひなたが固まった。


 怒られると思っていた。


 呆れられると思っていた。


 でも、返ってきたのはその言葉だった。


「……姉ちゃんも、そういうところあるんですよ」


「そういうところ?」


「優しいところです」


「……そうなのか」


「困ってても、自分から言わないし」


 ひなたは少しだけ口を尖らせる。


「大丈夫って言うし」


「……」


「本当は全然大丈夫じゃない時もあるのに」


「……」


「だから、放っとけなくて」


 恒一は、少し黙った。


 それから、小さくうなずく。


「分かる気がする」


「え?」


「なんとなくだけど」


 ひなたは、その顔を見る。


 恒一は真面目だった。


 変に気を遣っている感じでもない。


 本気でそう言っている。


(……姉ちゃんが気になるの、分かるかも)


 なんとなく。


 少しだけ、そう思った。


「で?」


 恒一が聞く。


「え?」


「どういうデートがいいんだ?」


「……え?」


「いや、やるならちゃんと考えないと」


 真顔だった。


 ひなたは目を瞬く。


「……やってくれるんですか?」


「白石がそれで元気になるなら」


「……」


「ただ、俺が勝手に決めていい話なのかは分からない」


「あ」


 ひなたは止まる。


 言われてみれば、その通りだった。


 自分は姉のために来た。


 でも、姉に確認していない。


「……姉ちゃんに聞いてないです」


「だろうな」


「分かってたんですか?」


「なんとなく」


 恒一は短く答える。


「じゃあ、まず白石に聞いた方がいいんじゃないか」


「……はい」


 ひなたは、少しだけ肩を落とした。


 でも、不思議と嫌な気持ちではなかった。


 ちゃんと止められた。


 ちゃんと考えろと言われた。


 それだけだった。


「でも」


「?」


「朝比奈先輩、思ってたよりちゃんとしてますね」


「……そうか?」


「はい」


 ひなたはうなずく。


「でも、なんか変です」


「最近よく言われる」


「そうなんですか」


「ああ」


 恒一は普通にうなずいた。


 ひなたは少し笑いそうになった。


(……なんか)


(思ってたより変な人だ)


 でも、悪い感じはしなかった。


 姉が気になる理由も、少しだけ分かる。


 少しだけ。


 本当に少しだけ。


「じゃあ、まず姉ちゃんに聞いてみます」


「ああ」


「その時は、ちゃんと主語も入れます」


「それがいいと思う」


「はい……」


 ひなたは赤い顔のまま、小さくうなずいた。


 休日の駅前。


 人通りの多い中で。


 白石ひなたは、姉のための作戦が、まず主語から足りていなかったことを思い知った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。