答えを出すのが早い件
放課後、ニ年A組。
「……なあ」
恒一が口を開く。
基樹が顔を上げる。
「またなんかやったのか?」
「やったというか」
恒一は少し考える。
「白石ひよりとデートすることになった」
一瞬にして、空気が止まった。
「……は?」
基樹が固まる。
彩音は、机に頬杖をついたまま目を細めた。
「へえ」
ちょっと楽しそうだった。
「妹に頼まれた」
「余計ややこしいな!?」
基樹のツッコミが飛ぶ。
「どういう状況だよ!」
「白石ひなたに駅前で会った」
「うん」
「デートして下さいって言われた」
「うん」
「主語が抜けてた」
「なんでお前の周りそんな事故ばっか起きるんだよ……」
基樹が頭を抱える。
彩音は肩を震わせていた。
「ふふっ……」
「笑うな」
「いや、主語抜けはちょっと面白いって……」
彩音が笑いを堪えながら言う。
「で?」
恒一が続ける。
「白石、最近元気ないらしい」
「公開告白の件ね」
「たぶん」
少しの沈黙。
恒一は考える。
「……これ」
「もしかして白石って、俺のこと好きなのか?」
基樹が止まる。
彩音も、一瞬だけ目を瞬いた。
でも次の瞬間。
彩音が吹き出した。
「答え出すの早くない?」
「早いか?」
「昨日まで“嫌われたくない”って言ってた人とは思えないんだけど」
「……」
恒一は少し考える。
「確証はない」
「そこだけ冷静なんだ」
彩音が笑う。
基樹が腕を組んだ。
「いやでも、状況だけ見ると、普通そう考えるだろ」
「そうなのか?」
「そうだよ!」
即答だった。
彩音は、少しだけ視線を逸らす。
「まあ」
「妹ちゃんが勘違いして暴走してる可能性もあるけどね」
「……あー」
基樹が納得した顔になる。
「それはありそう」
「悪気ゼロっぽかったし」
恒一も思い出す。
『いいことあると思って』
本気で言っていた。
「……」
少し考える。
「じゃあ、まだ分からないのか」
「そうだね」
彩音が笑う。
「恒一の恋愛、毎回情報が足りないから」
「そんなことあるか?」
「主語がなかった時点で察して」
基樹が真顔で言った。
「……難しいな恋愛」
恒一がぽつりと漏らす。
「今更か」
基樹のツッコミ。
彩音が楽しそうに笑った。
「恒一はまず、主語を確認するところから始めよっか」
教室に、小さな笑い声が広がった。




