勝手に決めてしまった話
夜の白石家。
机の上、開かれた参考書。
けれど、白石ひよりの視線は、ほとんど文字を追えていなかった。
「……」
ため息をつく。
最近、変だ学校でも家でも。
“こういちさん”という言葉だけで、妙に意識してしまう。
その時。
「お姉ちゃん!」
勢いよく扉が開いた。
ひなた、なぜかすごく元気だった。
「……なに?」
「デート決まったよ!」
一瞬、ひよりの思考が止まった。
「……は?」
ひなたは満面の笑みだった。
「朝比奈先輩に頼んできた!」
「ちゃんとOKもらった!」
「……」
数秒間、ひより停止。
「……なんで?」
やっと出た言葉が、それだった。
「だってお姉ちゃん最近元気なかったし!」
悪気ゼロ。
本気だった。
「公開告白の件、絶対気にしてると思ったから!」
「……っ」
ひよりが少し目を逸らす。
図星だった。
「だから!」
ひなたが胸を張る。
「ちゃんと話せる機会作った!」
「えらい?」
「……」
怒れない、本当に。
姉のためを思ってやったのが分かるから。
「……勝手に決めないで」
やっと出た言葉は、それくらいだった。
「ごめん……」
ひなたが少ししょんぼりする。
その顔を見て。
ひよりは、それ以上強く言えなくなる。
「……」
沈黙のあと。
ひなたが、少しだけ笑った。
「でも、朝比奈先輩、お姉ちゃんのことちゃんと見てたよ」
「……え?」
ひよりが止まる。
「困ってても、自分から言わないタイプだよねって」
「放っとけない感じするって」
「……」
胸の奥が、少しだけ熱くなる。
ひなたは続ける。
「あと思ってたより、変な人だった」
「……なにそれ」
少しだけ。
ひよりが笑う。
でも、すぐにまた静かになる。
「……」
デート。
朝比奈恒一。
その言葉だけで、心臓が変にうるさい。
「お姉ちゃん?」
ひなたが首を傾げる。
「……嫌だった?」
ひよりの呼吸が止まる。
嫌なのか?
「……」
答えられない。
ただ、ひとつだけ分かってしまった。
(……嫌じゃない)
むしろ問題なのは。
(……なんで少し嬉しいの)
そっちだった。
■朝比奈 恒一
2年A組。陸上部。
真面目で誠実だが、恋愛だけズレている主人公。料理が得意。
■真田 巴
2年B組。
剣道・薙刀・弓道・陸上で全国級の天才。真っ直ぐで強いものが好き。
■一ノ瀬 彩音
2年A組。恒一の幼馴染。
人間関係をよく見ていて、恒一のズレを面白がっている。
■三浦 基樹
2年A組。恒一の親友。
常識人寄りのツッコミ役。
■三浦 純也
2年D組。
恒一の昔を知る友人。軽いノリだが観察力は高い。
■前田 千夜
2年D組。
観察者タイプ。恒一を「ちゃんとしてるけどズレてる」と見ている。
■白石 ひより
1年生。ひなたの姉。
静かで繊細。恒一を意識している。
■白石 ひなた
一年生。ひよりの妹。
悪気ゼロで暴走するタイプ。姉思い。
■佐々木 光一
陸上部部長。3年生。
恒一を次期部長候補として評価している。
■佐藤 忠一
2年D組。
真面目苦労人型の常識人。陸上部副部長候補。
■真田 真紀子
巴の母。
穏やかだが圧がある。料理好き。
■真田父
巴の父。
圧が強く嫉妬深いが、根は誠実。
■真田祖母
巴の祖母。
穏やかで人を見る目がある。
■神様
恒一の前に現れる謎の存在。
恋愛を勝手に進めようとする。




