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恋愛台帳、時代ズレにつき修正不能  作者: サザルト
すれ違い編

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また真田道場に来た話

 週末の真田道場。


「失礼します」

 門をくぐる。

 その瞬間。

「あら」

 声が飛んできた。

 真紀子母。

 やわらかい笑顔。

 その隣には祖母もいる。


「朝比奈さん」

「はい」

「久しぶりですね」

 少し嬉しそうだった。

「こんにちは」

 祖母も笑う。

「来ると思ってたよ」

「……そうなんですか」

「うん」

 即答だった。

(なんでだ)


 恒一が少し考えていると。

 廊下の奥。

 巴が出てくる。

 黒髪のポニーテール。

 今日は道着姿だった。

「……」

 一瞬、目が合う。

 前みたいな気まずさは、少し薄い。


「……来るなら、先に言ってよ」

 巴が少し視線を逸らしながら言う。

「母さんたち、朝からちょっと楽しそうだったし」

「……?」

 恒一は少し考える。

 真紀子母と祖母を見る。

 二人とも微笑んでいた。

(そうなのか)

 納得した。

「まあいいや」


 巴が小さく息を吐く。

「入りなよ」

「お邪魔します」

 道場へ入る。

 ……と思ったら。


「今日もこっちです」

 真紀子母に案内されたのは。

 また台所だった。

「……料理ですか」

「はい」

 嬉しそうにうなずく。

 祖母も横で笑う。

「この前の続き、気になっててねぇ」

「なるほど」

 恒一は自然に袖をまくった。


 その動きを見て。

 巴が少し呆れた顔をする。

「なんでそんな馴染んでるんだよ……」

「料理は好きだからな」

「そういう問題かな……」

 そのとき、廊下の奥から。

 じっとこちらを見る影。


 父が腕組み。

 完全監視状態。

「……」

 恒一と目が合う父。

 無言で近づく。

「……包丁」

「はい」

「持ち方は悪くない」

「ありがとうございます」

 父、うなずく。


 でも、次の瞬間。

 巴を見る。

 恒一を見る。

 また巴を見る。

 眉間にしわ。

 そして去る。

「忙しいな父さん……」

 巴がぼそっと言う。


「機嫌悪いのか?」

「悪い」

 即答だった。

「でも料理には参加したいんだよ」

「なるほど」

 そのあと、自然と会話が続く。

 味付け。

 火加減。

 切り方。

 真紀子母も祖母も、楽しそうだった。

「朝比奈さん」

 真紀子母がふと笑う。

「やっぱり、ちゃんと考えて作るんですね」

「……まあ」

 恒一は少し考える。

「食べる人のことは考えます」


 巴が止まった。

「……」

 祖母が小さく笑う。

 真紀子母も、少しだけ目を細めた。

 一方、父だけが。

 ものすごく複雑そうな顔をしていた。

 台所に、小さな笑い声が広がった。

「……」

 巴は、その光景を見る。

 母。

 祖母。

 恒一。

 そしてなぜか普通に混ざろうとしている父。


(……なんなんだこれ)

 少し前まで。

 こんな空気、想像もしていなかった。

 騒がしくて、距離が近くて。

 でも、不思議と嫌じゃない。

「……まあ」

 小さく息を吐く。

「前よりは、悪くないか」


「……でも」

 恒一がふと思い出したように言う。

「最近、道場来ても料理しかしてないな」

 一瞬、全員が止まる。

「……は?」

 巴が固まる。

「確かに」

 恒一は真面目に考える。

「剣道しに来てるはずなんだが」

「今気づいたのかよ!」

 巴のツッコミが飛ぶ。

 真紀子母が吹き出す。

 祖母も肩を揺らす。


 父だけが真顔だった。

「……料理も大事だ」

「父さん混ざるな!」

 笑い声が、また台所に広がった。

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