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普通にすごかった話

 陸上競技場、夕方。

 大会が終わったあとの空気が、少しだけ残っていた。


「……」

 朝比奈恒一は、静かに息を吐く。

 汗、疲労、足は重い。

 でも、嫌な感覚ではなかった。

 電光掲示板。

 順位が表示される。

 

 一瞬周囲がざわついた。

「え、朝比奈入った?」

「マジか」

「関東行ったぞあいつ」

「あいつまだ始めて半年くらいだろ?」

「……」

 

 恒一は、少しだけ目を瞬く。

 隣の佐々木光一が静かに笑った。

「やるじゃん」

「……どうも」

 恒一は短く返す。

「いやもっと喜べよ!」

 陸上部員が肩を叩く。

「……?」


「お前普通にすげえんだからな!?」

「そうか」

 でも、少しだけ。

 口元が緩んでいた。

「……」

 それを見た部員が笑う。

「……絶対今嬉しいだろ」

「まあ」

「分かりづれえんだよ!」

 周囲が少し笑った。


「そういえば」

 誰かが言う。

「真田先輩、今年もインターハイ決めてましたよね」

「ああ」

 佐々木がうなずく。

「薙刀部と弓道部」

「……?」

 恒一が止まる。


「陸上も」

「……?」

「全国」

「普通に化け物」

 佐々木が真顔で言った。


「……」

 恒一は少し考える。

 真田巴。

 長身。

 薙刀。

 強い。

 でも。

「本業剣道なんだよな、あの人」

「最近ちょっと飽きてあんま出てないけど」

「意味わかんねえですよね」

 陸上部員が引いた顔で言う。

「……」


 恒一は、なんとなく納得した。

 強いとは思っていた。

 思っていたが。

 想像より、ずっとおかしかったらしい。


「まあ、もうすぐ三年引退だけどな」

 佐々木が言う。

「……」

 空気が少し変わる。

 引退。

 部長。

 次の代。


「だから」

 佐々木が、ふと恒一を見る。

「入部してまだ半年だから難しいかもしれないけど」


「俺、お前を次の部長に推すつもりだから」

「……?」


 恒一が止まる。

「……真田じゃないんですか?」

「あいつ兼部」

 即答だった。

「兼部してるやつは対象外」

「……そうなんですか」

「そうなんです」

 佐々木は笑う。


「あと、お前意外と周り見てるし」

「……」

 恒一は少し黙る。

 そんなこと、言われたことがなかった。


「最近変わったよ、お前」

 佐々木が静かに言う。

「前より、ちゃんと考えて走ってる」

「……」

 朝練。

 フォーム。

 呼吸。

 最近は、前より考えることが増えた。


 前までは。

 ただ走っていた気がする。

「……」

 恒一は、グラウンドを見る。

 少しだけ、胸の奥が温かかった。


(……認められた)

 そう思った。

「……」

 でも、表情はいつも通りだった。

「分かりづれえんだよ!」

 陸上部に、笑い声が広がった。

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