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わかりやすくない話

 昼休み、2年D組。


 前田千夜は、窓際から外を見ていた。

「……」

 グラウンド。

 陸上部。

 朝比奈恒一が走っている。

 フォームは綺麗だった。

 無駄が少ない。

 真っすぐ走る。


「……」

(……やっぱり、よくわからない)

 千夜は思う。

 悪いやつには見えない。

 むしろ、ちゃんとしている。


 真面目だし。

 気遣いもしている。

 でも、その気遣いが、妙にズレる。


「……」

 視線の先。

 基樹が何か言っている。

「だからお前、その距離の取り方やめろって」

「ちゃんとしてるだろ」

「ちゃんとしてねえんだよ!」

 即ツッコミ。


 恒一は、本気で分かっていない顔をしていた。

「……」

 千夜は、小さく息を吐く。

(……本気なんだ)

 演技ではない。

 分かった上でやっている感じもない。

 本当に。あれが自然。

「……」


(……面倒くさいな)

 でも、少しだけ。

(……巴が気になるのも分かる)

 そう思った。


 放課後の校舎裏。

 自販機の前。


「……で?」

 真田巴が聞く。

「どうだった?」

「変なやつ」

 千夜は即答した。


「……」

「悪いやつではないと思う」


「でも」

 缶を傾ける。

「多分、本人が一番分かってない」

「……」

 巴は、少し黙る。

 なんとなく、分かる気もした。

「……」


 風が吹く。

 少しだけ沈黙。


「もっと」

 千夜が何気なく言う。

「分かりやすい人好きになれば?」

「は?」

 即答だった。


 空気が変わる。

 千夜が少しだけ目を瞬く。

「……いや」

「なんでそうなる」

 低い声。

 珍しく、感情が出ていた。


「……」

「別に私は」

 そこで止まる。

 言葉が詰まる。


「……」

 千夜は、少しだけ目を細めた。

(……ああ)

 静かに理解する。

 たぶん、本人が一番分かっていない。

「……ごめん」

 千夜は、小さく言った。

「……別に」

 巴は視線を逸らす。

 でも、その耳は少しだけ赤かった。


 少し離れた場所では。

「だからその距離感がおかしいんだって!」

「……?」

 三浦基樹のツッコミが、今日も響いていた。

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