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見てたら、なんかちょっとわかった件

 放課後、2年A組前。


 前田千夜は、廊下の壁にもたれていた。

「……」

 教室の中を見る。

 特に理由はない。

 ……いや、ある。

(……どんなやつか)

 少しだけ、気になった。


 あの巴が。

 あそこまで引っかかる相手。

「……」

 視線の先。


 朝比奈恒一。

 黒髪。

 少し長めの前髪。

 派手さはない。

 でも。

 妙に目に残る。

 姿勢がいい。

 無駄な動きが少ない。

 静かなやつだ、と千夜は思った。


 一方の三浦基樹は、逆だった。

 短めの髪。

 表情がよく動く。

 話すたびに空気が動く。

 たぶん。

 ああいうやつがいないと。

 朝比奈恒一は成立しない。


「だからさ」

 基樹が呆れた声を出す。

「お前最近、真田避けすぎなんだよ」

「避けてない」

 恒一は即答した。


「距離取ってるだけだ」

「避けてんだよそれ!」

 即ツッコミ。


「……?」

 恒一は、本気で分かっていない顔をする。

「違うだろ」

「違わねえよ!」

 声が響く。

「お前、前もっと普通だったろ!」

「普通だ」

「今が普通じゃねえんだよ!」

「……」


 恒一は少し考える。

「でも」

「ちゃんとしてるだろ」

「その“ちゃんとしてる”が怖えよ!」

 基樹が頭を抱える。


「……」

 千夜は、黙って見ていた。

(……これか)


 なんというか。

 噛み合っていない。

 でも。

 妙に自然だ。


「……そういえば」

 別の男子が口を挟む。

「朝比奈の弁当今日もうまそうだったな」

「ああ」

 恒一は普通にうなずく。

「昨日の残りだ」

「残りであれになるの意味わかんねえよ」

 基樹が即座に返す。


「なんであの卵焼きで飯屋みたいな味出るんだよ」

「火加減だろ」

「知らねえよ!」

 またツッコミ。


 教室の空気が少し笑う。

 そのとき。

「でも恒一の料理、ほんと美味しいよね」

 笑いながら、一ノ瀬彩音が会話に入った。

 肩まで伸びた艶のある黒髪。

 柔らかく整った顔立ち。

 笑うだけで、空気が軽くなる。

 派手ではない。


 でも、自然と視線が向くタイプだった。

「……」

 空気が、少し変わる。

 自然に、朝比奈も三浦も。

 その流れを受け入れている。


「前食べたハンバーグ、普通に店レベルだったし」

「彩音、お前甘やかしすぎなんだよ」

 基樹が呆れる。

「事実だよ?」

 彩音は、楽しそうに笑った。

「……」


 千夜は、その様子を見る。

(……この人か)

 巴の話に何度か出てきた名前。

 一ノ瀬彩音。

 空気が軽い。

 自然に会話へ入って。

 自然に場を動かしている。

「……」


 千夜は、少しだけ目を細める。

 巴と一ノ瀬彩音。

 タイプは全然違う。

 でも、ちゃんと友達なんだろうな、と少し思った。

「……」

 視線を戻す。

 恒一は。

 相変わらず、よく分からない顔をしていた。

「真田には悪いことしたと思ってる」

 ふと、恒一が言う。

「だったらちゃんと話せ!」

 基樹が即返す。


「話した」

「足りてねえんだよ!」

「……?」

 本気で分かっていない顔。

「……」

 千夜は、小さく息を吐く。

(……悪いやつではないんだろうな)

 それは分かる。


(……けどよくわからない)

 距離を取ってるのに。

 拒絶しているようにも見えない。

 ちゃんとしているようで。

 どこかズレている。

「……」


(……でも)

 教室の中を見る。

 笑う彩音。

 呆れる基樹。

 その中心にいる、朝比奈恒一。

(……巴が気になるのは)

 少しだけ。


(……わかる気がする)

 そう思って。

 千夜は、壁から背を離した。

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