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謝ったのに、距離が遠い件

 放課後の廊下。


 人の流れが、ゆるやかに減っていく。

 真田巴は、立ち止まっていた。

「……」


 前から、朝比奈恒一が歩いてくる。

 一瞬、目が合う、その瞬間。

 恒一は、ほんのわずかに進路をずらした。

 半歩、距離を空ける。


「……」

 巴は、それを見る。

(……やっぱり)

 胸の奥が、少しだけ沈む。


 それでも。

「朝比奈」

 呼ぶ。

 恒一が止まる。

「……なに?」

 

 距離は、そのまま。

 いつもより、遠い。

「昨日のこと」

「……」

「やりすぎた」

「ごめん」

 短く、まっすぐに言う。


「……ああ」

 恒一は、軽くうなずく。

「別にいい」

「……」

「大丈夫だ」

 それだけ。

 声は変わらない、怒ってはいない。

 でも、近づかない。踏み込まない。


「……そう」

 巴は、短く返す。

 早い沈黙。

 会話が続かない。


「……」

 恒一は、それ以上何も言わない。

 距離を保ったまま。

「じゃあな」

 それだけ言って、歩き出す。


「……」

 背中が、遠ざかる。

 廊下に、残る。

(……許された)

 そう思う。

(……でも)

 視線を落とす。

(……戻らない)

 謝った、怒られていない。

 それなのに、距離はそのまま。


「……」

 小さく、息を吐く。

(……やっぱり)

 頭の中で、繋がる。

 ・ひより

 ・応援

 ・距離

(……そういうことか)

 言葉にはしない。


 でも、もう迷わない。

 距離は理由があって、取られている。


 その少し先。

「……おい」

 基樹が声をかける。

「なんだ?」

 恒一は止まらない。

「今の」

「……ちゃんと距離取っただけだ」

「……」


「お前さ」

「何のために陸上部入ったんだよ」

「……?」

 恒一、首をかしげる。

「走るためだろ」

「違うだろ!」

 即ツッコミ。


「……?」

「そういう話じゃねえよ!」

 声が少しだけ強くなる。

「人間関係も含めてだろ普通は!」

「……」

 恒一は、少し考える。

「問題ないだろ」

「ちゃんとしてるし」


「……」

 基樹は、顔を覆う。

「……ダメだこいつ」


 廊下の端。

 真田巴は、まだそこにいた。

 動かない。

 ただ、少しだけ距離を置いて立っていた。


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