ちゃんと伝えたのに、全然違う意味で受け取られた話
放課後のグラウンド。
走る音、掛け声。
その中に、朝比奈恒一がいる。
(……いた)
白石ひよりは、少しだけ息を整える。
(言うだけ)
一歩、近づく。
「……朝比奈先輩」
「ん?」
振り向く。
「どうした」
いつも通り。
「……」
一瞬、言葉が止まる。
(さっきは言えたのに)
「……ちょっといいですか?」
「いいけど」
軽く頷く。
少し離れた場所へ。
「で?」
「……昨日のことなんですけど」
「ああ」
「公開告白のやつか」
「……」
「大変だったな」
「……え?」
「ほら」
「佐々木先輩にだろ」
「……違います」
「ん?」
「私じゃ、ないです」
「……ああ」
少しだけ考えて。
「……あれ、妹なんです」
「……」
「そうか」
「気付かなかった」
それだけ。
「いい妹だな」
「……え?」
「行動力あるし」
「ちゃんとしてる」
「……」
(そこじゃない)
言葉が出かけて、止まる。
「で?」
「ちゃんと話せたのか?」
「……はい」
「佐々木先輩が」
「振られたことにするって」
「言ってくれて」
「そうか」
軽くうなずく。
「いい先輩だな」
「……」
(……それだけ?)
「……あの」
もう一度、口を開く。
「……好きな人は」
「佐々木先輩じゃ、ないです」
「知ってる」
「……え?」
思わず顔を上げる。
「陸上部のやつだろ」
「……」
言葉が止まる。
「で」
「真田のことか?」
「……え?」
頭が追いつかない。
「巴」
「同じ陸上部だろ」
「……」
一瞬、何も言えない。
(……違う)
(なんでそうなるの)
でも、言葉が出ない。
「まあ」
恒一は続ける。
「ライバルかもしれないな」
「……え?」
「巴のこと気にしてるやつ、多いし」
「巴ちゃんとしてるしな」
「……」
(違う)
(そうじゃない)
「……」
でも、声が出ない。
「まあ頑張れ」
「……はい」
小さく答える。
「それだけか?」
「……はい」
「じゃあ戻るな」
背を向ける。
そのまま戻っていく。
「……」
ひよりは、その場に残る。
(……全部違う)
小さく思う。
(でも)
少しだけ息を吐く。
(……言ったから)
それだけで、少し違った。
風が吹く。
距離は、まだ遠かった。
その少し離れた場所で。
一ノ瀬彩音は、腕を組んでいた。
「……」
一部始終を見ていた。
ほんの一瞬、口元が、ゆるむ。
「……いいね」
小さく、つぶやく。
「面白くなってきた」
そのまま、くるりと背を向ける。
足取りは、軽い。




