なんか違う方向に進んでない?
昼休みの教室。
「聞いた?」
「昨日のやつ?」
「公開告白」
「三年にだよね」
「しかも陸上部の」
ざわざわと、話題はそればかり。
一方の巴。
「……」
黙って、弁当をつついている。
「巴、知ってる?」
隣の友達が身を乗り出す。
「昨日さ、グラウンドで」
「一年っぽい子がいきなり――」
「“こういちさん、好きです!”って」
「……」
箸が止まる。
「で、三年の佐々木に告白してさ」
「え?」
思わず顔を上げる。
「佐々木?」
「そうそう」
「なんか名前だけで呼んだっぽくて」
「……」
一瞬、考える。
(名前だけ……)
引っかかる。
「しかもさ」
「返事待ってもらうことになったらしいよ」
「……は?」
思わず漏れる。
「え、なにその反応」
「いや……別に」
目を逸らす。
「なんかさ」
「積極的だよね、最近の子」
「……そうだね」
小さく答える。
(……なんで)
一瞬、浮かぶ。
「俺のことどう思ってる?」
「……」
顔が、少しだけ固まる。
(なんであのタイミングで)
(なんであんなこと聞いてきて)
昨日の出来事と今の話が。
うまく繋がらない。
(……もしかして)
一瞬、よぎる。
(ひよりって……)
そこで止まる。
(……いや)
首を振る。
(違うでしょ)
(だってあの子は――)
そこまで考えて。
言葉が出てこない。
「……」
(私の思い違い?)
小さく、心の中でつぶやく。
(……わかんない)
結論は出ない。
ただ少しだけ、落ち着かない。
そのとき。
「巴!」
後ろから声。
振り向くと恒一。
「……なに?」
「昨日さ」
「また告白あったらしいな」
「……らしいね」
淡々と返す。
「最近多いな」
「……そうだね」
会話が、少しだけズレる。
「ちゃんとしてる人って、やっぱりモテるんだな」
「……」
一瞬、止まる。
「……は?」
「いや」
「ちゃんとしてるって大事だなって」
「……」
視線が揺れる。
(それ、誰の話)
聞きたくなる、でも。
「……そうだね」
それ以上は言わない。
一方の少し離れた席。
彩音。
(混ざってきた)
(いいね)
口元が上がる。
昼休みは、いつも通り過ぎていく。
でも、少しだけ空気が違っていた。
――その頃。
ひよりは。
まだ、自宅で休んでいた。
何も知らずに。




