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恋愛台帳、時代ズレにつき修正不能  作者: サザルト
すれ違い編

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第67話 だいたい彩音のせい

■二年A組教室


 放課後の教室。


 人もまばらになった頃。


 基樹は、ふと視線を上げた。


 少し離れた席。


 彩音がスマホを見ながら、くすっと笑っている。


「……なあ」


「ん?」


 彩音が顔を上げる。


「お前、最近楽しそうだな」


 一瞬の間。


 彩音の口元が、少しだけ上がった。


「うん」


「いや、そこは否定しろよ」


 基樹が即座にツッコむ。


「なんで?」


「なんでじゃねえよ」


 基樹は、机に肘をついたまま言う。


「原因、恒一だろ」


「……」


「恒一で楽しんでるだろ?」


 言い切る。


 彩音は少しだけ間を置いて。


 ふっと笑った。


「まあね」


「認めるな!似非探偵」


 また即ツッコミ。


 そのやり取りに、横から声が入った。


「何の話?」


 純也だった。


「いや、別に」


 基樹が適当に返す。


「いつものやつ」


「ああ」


 純也は、納得したようにうなずいた。


 そして、そのまま彩音を見る。


「……相変わらずだな」


 小さく言う。


 こういうところは、昔からあまり変わらない。


 面白いものを見つけた時の彩音は、止めるより先に観察する。


 それを分かっているから、基樹は余計に疲れる。


「で?」


 彩音が顔を上げる。


「純也はどうする?」


「何が?」


 彩音が少しだけ身を乗り出した。


「せっかくだしさ」


「……」


「二人でかき回す?」


「やめろ!」


 基樹が即答した。


「絶対ろくなことにならない」


「なるよ」


「ならねえよ」


「面白くはなる」


「それがダメなんだよ」


 またツッコミ。


 彩音が、くすっと笑う。


 純也は少し考えて。


「……まあ」


 肩をすくめた。


「見てるだけでいいかな」


「正解」


 基樹がうなずく。


「それが一番いい」


「つまんないなあ」


 彩音が軽く言う。


 でも、その目は楽しそうだった。


 教室の外。


 廊下の向こうから、恒一の声が少しだけ聞こえる。


 何も知らずに、いつも通りの声だった。


 三人は、なんとなくそちらを見る。


「……」


 基樹が小さくつぶやく。


「ほんとにさ」


「うん?」


「なんでこうなるんだろうな」


 その時。


 彩音が、またくすっと笑った。


「ねえ、純也」


「ん?」


「さっきさ――」


 彩音は少しだけ身を乗り出す。


「こんなことあって」


 小声で、手紙の件から今までの流れを話し始めた。


 宛名のない手紙。


 真剣な気持ちです、ぜひ読んでください。


 佐々木先輩が朝比奈からだと誤解したこと。


 部室で二人きりになって、朝比奈が誤解を解きに行ったこと。


 そして最後に、また妙な疑惑が残ったこと。


「……は?」


 純也が固まった。


 次の瞬間。


「ははっ……!」


 思わず吹き出す。


「なにそれ」


「だろ」


 基樹が疲れた顔でうなずく。


「全部ズレてんじゃん」


「そうなんだよ」


「でしょ」


 彩音は楽しそうに笑う。


「私もさ」


「うん」


「もうやめよう、やめようって思うんだけど」


 少し肩をすくめる。


「ついつい、次が気になって」


「やめろって言ってんだろ!」


 基樹が即座にツッコむ。


「完全にお前が原因だよ!」


「えー」


「えーじゃねえ」


「だって、すごい面白いんだもん」


「それに、私が何かしたわけじゃないし」


「止めてない時点で半分してるんだよ」


「半分?」


「いや、八割くらいかもしれない」


「増えた」


 彩音は、ただ笑っていた。


 純也もまだ少し笑っている。


「でも、朝比奈ってすごいな」


「どこがだよ」


「そこまで全部ズレるの、逆に難しいだろ」


「褒めるな」


 基樹がすぐに言う。


「本人、絶対いい方向に進んでると思ってるぞ」


「思ってるだろうね」


 彩音がうなずく。


「そこが一番まずいんだよ」


 基樹は、机に額を近づける勢いでため息をついた。


 教室の外では、恒一の声がまだ聞こえている。


 たぶん、何かを普通に話しているだけだ。


 本人の中では、何も問題はない。


 むしろ最近、空気がいいとすら思っている。


「……ほんと」


 基樹がぼそっと言う。


「だいたい彩音のせいだろ、これ」


「ひどいなあ」


 彩音は笑う。


 否定はしなかった。


 教室は、今日も少しだけ騒がしい。

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