ひよりの悩み
昼休み1年教室の隅。
ひよりは、少しだけ困った顔をしていた。
「……どうしたの?」
友人が声をかける。
「えっと……」
少し迷ってから。
「相談、いいですか?」
数分後。
「……なるほど」
「それはまた……」
友人たちが顔を見合わせる。
「つまり?」
「朝比奈先輩って」
「年上の人、好きなんですよね?」
「……たぶん」
ひよりが小さくうなずく。
「しかも」
言いにくそうに、続ける。
「ちょっと……」
「叱られるのが、好きっていうか……」
「……あー」
全員、なんとなく理解する。
「それ、だいぶ特殊じゃない?」
「うん……」
ひよりが小さくうなずく。
「だから……」
「私、どうすればいいのかなって」
真剣。
「じゃあさ」
友人の一人が言う。
「年上っぽく振る舞えば?」
「え、でも……」
「ちょっと強めに言ってみるとか」
「強め……?」
「“遅いです”とか」
「“ちゃんとして下さい”とか」
「……難しいです」
ひより、真剣に悩む。
(どうすれば)
(近づけるんだろう)
そのとき。
近くを歩いていた
恒一の耳に会話が少し耳に入る。
「年上」
「叱られるのが好き」
箸が止まる。
(……)
自然と、意識が向く。
「そういう人、好きみたいで」
(……)
一瞬。
思考が止まる。
そして。
ゆっくり、うなずく。
(……なるほど)
(完全に把握した)
静かに結論を出す。
(佐々木先輩か)
納得する。
(たしかに)
思い出す。
あの人。
厳しい。
隙がない。
(……そういうタイプか)
少しだけ、驚く。
(意外だな)
(まあ、わからなくはない)
もう一度、うなずく。
完全に理解した顔。
一方。
ひよりの周り。
「じゃあ練習する?」
「え?」
「ほら、言ってみて」
「……えっと」
小さく息を吸う。
「……お、遅いです」
「弱い弱い」
「もう一回」
「ちゃんとして下さい……」
「優しいな」
「難しいです……」
真剣に、悩んでいる。
教室の中。
それぞれの理解は。
きれいに、すれ違っていた。




