探偵、再び
放課後、校舎裏。
「……なあ、彩音」
基樹が腕を組んで言う。
「ん?」
彩音は壁にもたれている。
「結局さ」
「双子じゃなかっただろ」
「そうだね」
あっさり。
「ひより、普通に否定してたし」
「うん」
うなずく。
「じゃあさ」
少しだけ前に出る。
「駅前で見たのはなんだったんだよ!」
彩音が、少しだけ笑う。
「別人でしょ」
「……は?」
「似てるだけの人」
「年近いんじゃない?」
軽く言う。
(ほんとは、年子の妹だけど)
言わない。
(教えたら終わるし)
くすっと笑う。
「いやいやいや」
基樹が首を振る。
「そんな都合よく――」
「あるよ」
即答する。
「人の顔なんて、結構曖昧だから」
「……」
基樹、少し黙る。
(……まあ)
(なくはないか)
でも。
まだ引っかかる。
「じゃあさ」
「結局どうなんだよ」
「何が」
「ひよりだよ」
「恒一のこと!」
彩音が視線を上げる。
グラウンド。
恒一が走っている。
その少し後ろ。
ひより。
静かに見ている。
その距離。
その視線。
「……」
彩音が小さく息を吐く。
「間違いないね」
「は?」
「好きだよ」
あっさり。
迷いなく。
「……マジで言ってる?」
「うん」
「見る位置」
「距離」
「タイミング」
「全部一致してる」
「……」
基樹、固まる。
「でもさ」
「本人、否定してたぞ?」
「聞き方がズレてるだけ」
「……」
「本質、そこじゃないし」
あっさり。
基樹、頭を押さえる。
(わけわからん)
「で」
彩音が続ける。
「恒一は?」
グラウンドを見る。
恒一。
何も知らない顔で走っている。
「気づいてない」
「だろうな……」
即納得。
「……なんなんだこれ」
「簡単だよ」
彩音が笑う。
「恒一が鈍いだけ」
「いや、それは知ってる」
でも、それだけじゃない気がする。
もう一度、グラウンドを見る。
ひより。
恒一。
距離は近い。
でも。
噛み合っていない。
「……」
「あとさ」
彩音が、ふと続ける。
「基樹も同じだよ」
「は?」
「鈍いだけ」
「なにが」
一瞬、彩音がほんの少しだけ笑う。
「自分のこと」
「気づいてないでしょ」
「……何に?」
問い返す。
でも。
彩音は答えない。
くすっと笑うだけ。
「まあいいや」
一歩、歩き出す。
「面白いから」
「おい待て!」
基樹が慌てて追う。
置いていかれる。
グラウンドでは。
恒一は、まだ何も知らない。
全部、少しずつ。
ずれたまま、進んでいる。




