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話がかみ合わない

 朝。2年A組の教室。


「――でさ」

 基樹が笑いながら言う。

「昨日、彩音に聞いたけど」

「お前、大変だったみたいだな」


「ん?」

 恒一は首をかしげる。

「そうか?」

「そうかじゃねえよ」

「普通あんなことならねえから」


「……ああ」

 少しだけ考える。

 投げられる。

 押さえられる。

 低い声。

 それと。

 台所。

 火。

 会話。

 味。

 止めに入った巴。


「まあ」

 小さくうなずく。

「楽しかったな」


「は?」

 基樹が固まる。

「料理もできたし」

「庇ってもらったし」

「……庇ってもらった?」

「うん」

 あっさり。


「……あれ?」

 基樹が小さくつぶやく。

 少しだけ首をかしげる。

(……なんか違うな)


 後ろの席。

 彩音が、くすっと笑う。

(やっぱりそうなるか)


 放課後のグラウンド。

 軽く流していると。

「朝比奈」

 声の主。

 巴。


 一歩、近づく。

 少しだけの間。

「昨日のこと」

 視線を少し外して。

「……ごめん」

 短く言う。


「ん?」

 恒一は、少し考えて。

「いや」


「楽しかったから、いい」

「……」

 巴の動きが、ほんの少し止まる。


「料理もできたし」

「いろいろあったけど」

「悪くなかった」

 変わらない調子。

 本気で言っている。


「……そっか」

 小さく、息が抜ける。

 肩の力が、少しだけ落ちる。

 それから。

「……変なの」

 いつもの調子で言う。


 でもさっきより。

 少しだけ、やわらかい。

 そのまま、離れる。


 そのやり取りを。

 少し離れた場所で。

 ひよりが見ていた。

(楽しかった……)

 言葉が、残る。

(あれが)

 一瞬、思考が止まる。


(……そういうのが)

 小さく、納得する。

(好きなんだ)

 さらに一歩。

 ずれる。


(……ちょっと)

 視線を逸らす。

(変わってる人なんだな)

 静かに、結論づける。

 

 グラウンドでは。

 いつも通りの時間が流れていた。


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