↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋愛台帳、時代ズレにつき修正不能  作者: サザルト
第1章 すれ違い編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
53/228

第53話 助手の憂鬱

■校舎裏


 放課後。


 基樹は、一人で立っていた。


(……なんで俺がこんなことしてるんだ)


 小さく息を吐く。


 視線の先。


 グラウンド。


 白石ひより。


 ……を、見ている自分。


(いや、違う)


(これは観察だ)


 そう言い聞かせる。


 あくまで検証。


 彩音が言っていたこと。


 駅前で見た、白石ひよりにそっくりな女子。


 あれが本当に別人なのか。

 もし別人だとしたら、双子なのか。


 それを確かめるだけだ。


 それだけ。


 そう、思っていた。


 思っていたのに。


(……これ、完全に尾行じゃないか?)


 ふと、冷静になる。


 物陰。


 視線。


 相手の動きを見るタイミング。


 どれを取っても、健全な放課後の高校生の行動ではない。


(証拠を押さえるつもりが)


(やってること、ただの不審者だろ)


 頭を抱える。


 今まで、彩音に対して何度も言ってきた。


 それやりすぎだろ。


 そこまで首突っ込むなよ。


 面白がるなよ。


 そう言ってきた。


 その自分が。


(何やってんだ、俺)


 しかも、彩音に言われたから始めたようなものだ。


 完全に巻き込まれている。


 助手ではない。

 助手ではないはずなのに。


 やっていることは、だいぶ助手っぽい。


(最悪だ)


 基樹は、もう一度ため息をついた。


■帰り道


 帰り道。


「なあ、恒一」


 思わず声をかけた。


「ん?」


 恒一が、いつも通りの顔で振り向く。


 こいつは何も知らない。


 そのくせ、全部の中心にいる。


 白石ひよりのことも。


 駅前のそっくりな女子のことも。


 彩音の観察のことも。


 俺が校舎裏で不審者みたいになっていたことも。


 何も知らない。


 それなのに、なぜか一番偉そうに結論だけ出している。


「俺さ」


 少しだけ迷う。


 でも、言った方がいい気がした。


「双子の証拠、握ろうとしてた」


「白石の?」


「……うん」


「なんで?」


「駅前で見た子が白石じゃないなら、双子かもしれないって話になって」


「ああ、あれか」


 恒一は、いまいち分かっていない顔で頷いた。


 たぶん、分かっていない。


「それで、なんか観察してたんだけど」


「うん」


「尾行みたいになっててさ」


「うん」


「やってること、ちょっと駄目な気がしてきた」


 正直に言う。


 口に出すと、少しだけ軽くなった。


 同時に、かなり情けなくもなった。


 恒一は、少しだけ目を丸くして。


 それから、小さく笑った。


「ははは」


「笑うなよ」


「いや、またそれやってたんだなって」


「またってなんだよ」


「前も言ってたじゃん。彩音に」


「……」


 何も言い返せない。


 確かに、言っていた。


 それやりすぎだろ、と。


 なのに、今度は自分がやっている。


 だいぶ恥ずかしい。


「まあでもさ」


 恒一が続ける。


「本人に聞けばいいじゃん」


「……は?」


「それが一番早いだろ」


 あっさり。


 本当に、あっさり言った。


「変に探るより、直接聞いた方が確実だし」


「……」


 シンプルすぎる。


 あまりにも単純で。


 あまりにも正論だった。


(……それもそうか?)


 一瞬だけ、揺れる。


 ひよりに聞く。


 双子の姉妹がいるかどうか。


 それだけなら、別に失礼ではないかもしれない。


 もちろん、聞き方は必要だ。


 でも、こっそり観察するよりはずっとましだ。


「……たしかに」


 小さくつぶやく。


 恒一は少し得意げに頷いた。


「だろ」


「なんでお前が得意げなんだよ」


「俺、たまには正しいこと言うし」


「たまにはって自覚が一応あるのか」


「いや、わりといつも正しいと思ってる」


「そこは自覚ないのかよ」


 基樹は、思わずため息をついた。


 でも。


 少しだけ、決心はついた。


■グラウンド


 翌日。


 基樹は、白石ひよりの前に立っていた。


「えっと」


 ぎこちない。


 どう考えてもぎこちない。


 ひよりは、不思議そうに基樹を見上げている。


「はい?」


 やわらかくうなずく。


 その様子は、いつもの白石ひよりだった。


 静かで。


 控えめで。


 でも、話をちゃんと聞こうとしてくれている。


 だから余計に、変な聞き方はできない。


「ちょっと聞いていい?」


「はい」


「変な意味じゃないんだけど」


「はい」


「……白石ひよりさんって」


 そこで、一瞬詰まる。


 少し離れたところでは、恒一がこちらを見ている。


 さらにその奥では、彩音も見ている。


 彩音は、完全に見守る顔だった。


 いや、たぶん楽しんでいる顔だ。


(……もういい)


 基樹は、覚悟を決めた。


「双子の姉妹、いる?」


 ひよりは。


 一瞬だけ、きょとんとした。


 それから、少し考えて。


 そして。


「いませんよ?」


 あっさりと。


 迷いなく答えた。


「……」


 基樹は固まった。


 ひよりは、少しだけ首をかしげる。


「どうしてですか?」


「あ、いや」


 基樹は慌てる。


「ちょっと似てる人を見た気がして」


「そうなんですか」


「うん。変なこと聞いて悪い」


「いえ」


 ひよりは、やわらかく微笑んだ。


「似てる人って、たまにいますよね」


「……そうだな」


 双子はいない。


 少なくとも、ひより本人はそう言った。


 これで一つ、可能性は消えた。


 はずだった。


 その横で。


 恒一が、ふっと息を吐いた。


(やっぱりな)


 そんな顔だった。


 そして。


 少しだけ、勝ち誇った顔で基樹を見る。


「よかったな」


「……は?」


 意味が分からない。


「何が」


「双子じゃなかったんだろ」


「それはそうだけど」


「じゃあ、俺の推理に近づいたな」


「近づいてねえよ」


「いや、双子じゃないなら、駅前の件は佐々木先輩説が強くなる」


「なんでそうなるんだよ」


「ひよりに似てる子がいて、双子じゃない」


「うん」


「つまり、本人の可能性が残る」


「まあ、残るけど」


「本人なら、男は佐々木先輩」


「飛びすぎだろ」


 基樹は顔をしかめる。


 ひよりは、少しだけ首をかしげている。


 たぶん、何の話か分かっていない。


 それでいい。


 分からない方がいい。


 少し離れた場所。


 彩音が口元を押さえていた。


 笑いをこらえている顔だった。


(……あいつ)


 あとで文句を言おう。


 そう思った。


 風が吹く。


 グラウンド。


 何かが解決したようで。


 何も解決していないまま。


 時間だけが、進んでいく。


 基樹は、改めて思った。


(助手って、たぶん損な役回りだ)


 いや。


 そもそも。


(俺、助手じゃないんだけどな)


 そのはずなのに。


 なぜか否定しきれないのが、一番憂鬱だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。