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恋愛台帳、時代ズレにつき修正不能  作者: サザルト
第1章 すれ違い編

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第5話 正面から聞いた方がいい話


 二年A組の教室の隅で、恒一は彩音の前に座っていた。


 彩音は昔から妙に人のことをよく見ている。そして今も。


「で、巴のこと知りたいんでしょ?」


 完全に見透かされていた。


「……頼む」


 恒一は素直に頭を下げた。


「いいよ」


「え、いいのか?」


「うん」


 彩音はにこっと笑う。


「面白そうだし」


「理由が軽い」


「でも協力する気はあるよ」


 そう言われると、何も返せない。彩音は誰とでも自然に話せるし、情報の回りも早い。こういう時は、正直かなり頼りになる。


「巴ね」


 彩音は指を折るようにして話し始めた。


「まず、裏表はほとんどない」


「それは分かる」


「思ったことはそのまま言う」


「知ってる」


「勝負事が好き」


「それも知ってる」


「強い人が好き」


「……それも知ってる」


 わりと知っていることばかりだった。


 だが、彩音はそこで少しだけ目を細めた。


「でもさ」


「?」


「弱い人が嫌いってわけじゃないと思うよ」


「え」


 それは初耳だった。


「巴が嫌いなのは、たぶん逃げる人」


「逃げる人」


「うん。勝負から逃げるとか、正面から来ないとか」


「……」


 なんとなく、分かる気がした。


 電車で見た時も、告白した時も、巴はまっすぐだった。雑なくらい、まっすぐだった。


「だから、コソコソ調べるより、本人に聞いた方がいいかもね」


「本人に?」


「そう」


 彩音は軽く笑った。


「まあ、恒一は黙っててもそのうち突撃しそうだけど」


「否定できない」


「できないんだ」


 彩音が楽しそうに笑う。


 その後も、彩音はいくつか巴の情報を集めてくれた。


 何が好きか。どんな時に機嫌がいいか。誰と仲がいいか。


 ただ、聞けば聞くほど思う。


 巴は、分かりやすいようで、かなり難しい。


◇ ◇ ◇


 昼休み。


 彩音は廊下で何人かの生徒と話していた。恒一に頼まれたことだったが、本人も少し楽しんでいるように見える。こういう人の流れを読むことが、彩音は昔から得意だった。


「ありがとね」


 彩音が笑って相手に手を振った、その時だった。


「彩音」


 背後から声がした。


 振り向くと、巴が立っていた。まっすぐな立ち姿は廊下でもよく目立ち、その表情はいつもより少し真剣だった。


「なに?」


 彩音はいつも通り明るく返す。


「最近さ」


 巴が一歩近づく。


「私のこと、いろいろ聞いてない?」


 直球だった。


 逃げ場がない。


「……え、あー」


 珍しく、彩音が一瞬だけ詰まった。


 巴は責めるような声ではなかった。ただ、言いたいことははっきりしていた。


「聞かれるのが嫌なわけじゃない」


「うん」


「でも、コソコソされるのはあんまり好きじゃない」


 強い言い方ではない。それでも意思はまっすぐだった。


「知りたいなら、直接聞いてよ」


 それだけ言うと、巴は踵を返して歩いていった。


 廊下に、少しだけ沈黙が残る。


「……やっちゃったね」


 彩音が苦笑した。


◇ ◇ ◇


 その話を聞いて、恒一は深く息を吐いた。


「ごめん」


「え?」


「俺が頼んだからだろ」


 彩音は少しだけ驚いた顔をした。それから、ふっと笑う。


「いいって」


「でも」


「こういうのも経験だし」


 軽く言っているが、その顔には少しだけ反省も見えた。


 恒一はうなずいた。


「……なるほどな」


 少しだけ分かった気がした。


 巴は、やっぱりまっすぐな人間だ。だから、まっすぐ来ないものには気づく。そして、たぶん嫌がる。


 でも逆に言えば。


(正面から行けば、ちゃんと見てくれる)


 それは悪いことではなかった。


「彩音」


「なに?」


「ありがとな」


「ん?」


「色々、助かった」


 彩音は少しだけ照れたように笑った。


「どういたしまして」


「じゃあさ」


「?」


「今度、何か奢ってね」


「……やっぱりそうなるか」


「当然でしょ」


 二人で少しだけ笑った。


 面倒をかけたし、たぶん少し失敗もした。それでも友達に頼り、失敗しながら、少しだけ前に進んだ気がした。


 次は、ちゃんと自分で聞く


 巴という人を知るには。


 たぶん、それが一番早い。



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