表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/104

俺の名前、弱そうらしい

 放課後、グラウンドの端。


 靴紐を結びながら、恒一は顔を上げた。

(……なんか最近)

 視線。

 ちらちらと。

 向けられている気がする。

 原因は、だいたい分かっている。

 あの二人だ。

 基樹と、彩音。

(あいつら、最近おかしくないか?)

 遠くベンチの影。

 なぜか二人でこちらを見ている。

 目が合うと、さっと逸らす。

(……怪しすぎるだろ)


 少し考えるが。

 (まあ)

 すぐに結論は出る。

(元から変なやつらだしな)

 すぐ納得。


 むしろ。

(あれをまとめてる俺、けっこう凄くないか?)

 小さくうなずく。

(常識人って、やっぱ必要だし)

 軽く胸を張る。


 そのとき。

「朝比奈」

 声に振り向く。


 巴。

 タオルを肩にかけたまま、こちらに歩いてくる。

「ちょっといい?」

「おう」

 隣に並ぶ。

 少しだけ、距離が近い。

 ふと、思い出す。

 本多忠勝。

 あの名前。

(強そうなんだよな)

 なんとなく、気になる。


「なあ」

 恒一が口を開く。

「名前の話なんだけどさ」

「うん?」

 巴がこちらを見る。

「本多忠勝って、やっぱ強そうだよな」

「うん」



「かっこいいし」

 巴が、少しだけ楽しそうに言う。

 やっぱりそうか、と思う。

 そこで。

 少しだけ間を置く。


「じゃあさ」

「俺の名前ってどう思う?」

 一瞬、巴がきょとんとする。


 でもすぐに考える。

「……恒一?」

「おう」

 一

 そして。

「なんか」

 少しだけ首を傾ける。

「弱そう」

「……」


 風が吹く。

 言葉が、少し遅れて刺さる。

「いや待て」

「なんでだよ」

「なんとなく」

 悪気のない声。


「優しそうっていうか」

「戦う感じしない」

 追い打ち。

「いや、戦う名前じゃないからな」

 思わず言い返す。

「そうなんだけど」

 巴が少しだけ笑う。


「忠勝は“勝つ”って入ってるし」

「……」

 確かに。

 強い。

 分かりやすく。

「恒一は」

 少しだけ考える。

「なんか、普通」


「……普通ってなんだよ」

 思わず小さく笑う。

 でも。

(弱そう……か)

 頭の中で反芻する。

 嫌な感じではない。

 でも、引っかかる。


「まあ」

 巴が軽く肩をすくめる。

「悪くはないと思うけど」

「フォローになってねえ」

 苦笑する。

 そのまま、少しだけ沈黙。


 夕方の空気。

 風が、少し涼しい。

(……どうすればいいんだ、これ)

 名前は変えられない。

 今さら。


(弱そうって言われたままなのもな)

 考える。

 少しだけ。

 真面目に。


(まあ)

 小さく息を吐く。

(強くなればいいか)

 シンプルに。

 それでいい気がした。


 隣で。

 巴がふっと笑う。

 その理由は、わからない。


 少し離れた場所。

 ベンチの影。

「……今の聞いた?」

 彩音が小声で言う。

「聞こえた」

 基樹がうなずく。

「自分から聞いてたな」

「しかもダメージ受けてる」

 二人、顔を見合わせる。

 そして、小さく笑う。


「やっぱりだね」

「何が」

「まだ言わない」

 グラウンド。

 恒一は、何も知らないまま。

 いつも通り立っている。


 少しだけ。

 考えながら。

(……とりあえず)

(走るか)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ