探偵、動く
放課後の校舎裏。
基樹は腕を組んでいた。
(……やっぱり変だ)
駅前で見た光景。
白石ひよりにそっくりな女。
男と、あの距離。
(どう見ても、デートだろ)
でも。
(朝比奈の話だと、佐々木先輩)
頭の中で並べる。
どうにも。
噛み合わない。
「――で?」
横から声。
彩音。
いつの間にか、すぐ隣に立っている。
「悩み相談?」
「違う」
「じゃあ事件だね」
にやりと笑う。
「探偵・彩音に任せなさい」
「だから違うって」
ため息をつく。
少しだけ迷ってから。
「……ひよりのことなんだけど」
「うん」
「この前さ――」
駅前で見たことを全部話す。
彩音は黙って聞いていた。
途中で一度だけ、軽くうなずく。
それだけ。
話し終わる。
「……で?」
「でって」
「結論は?」
「わかんねえから聞いてんだろ」
彩音が、少しだけ目を細める。
「私も同じ」
「……は?」
「それ、恒一の言ってるほうは違うと思う」
あっさり言う。
「やっぱりか」
小さく息を吐く。
どこか、納得した顔。
「理由は?」
「簡単」
指を一本立てる。
「情報が少なすぎるのに、あいつだけ結論出してる」
「……」
「そういうときって、大体ズレてる」
断言。
妙に説得力がある。
「あと」
もう一本、指を立てる。
「“こういちさん”ってだけで佐々木先輩に結びつけるの、雑すぎ」
「確かに」
思わず頷く。
「でしょ?」
彩音が満足そうに笑う。
「というわけで」
一歩、前に出る。
「この件、調べる価値あり」
「おい」
「久々の案件だね」
完全にスイッチが入っている。
「……勝手にやるなよ」
「もうやる」
「まずは観察」
「接触は?」
「まだ」
首を横に振る。
「対象が警戒するから」
「誰が対象だよ」
「白石ひより」
迷いがない。
「あと」
少しだけ間を置く。
「恒一も」
「なんでだよ」
「一番ズレてるから」
さらっと言う。
基樹、苦笑する。
「まあ、否定できねえな」
彩音が、にやりと笑う。
「でしょ?」
そのまま、軽く伸びをする。
「――面白くなってきた」
小さくつぶやく。
基樹が、呆れたように肩をすくめる。
「巻き込まれる気しかしねえんだけど」
彩音が一歩、前に出る。
振り返る。
その顔は、完全に楽しんでいた。
「助手」
「ついてきなさい」
「誰が助手だ」
即答。
でも足は、自然と動いていた。
こうして。
探偵彩音の活動は静かに始まった。




