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完全に把握した

 夕方の駅前。


 基樹は足を止めた。

「……は?」

 視線の先。

 見覚えのある顔。

 白石ひより。

 ……に、見える。


 隣には、男。

 距離が近い。

 自然すぎる距離。

(いや)

(あいつ、こんなタイプだったか?)


 歩く笑う、並ぶ。

 普通に。

 “そういう感じ”だ。

「……」

 顔は、間違いない。

 (でもなんか違う気もする)

 確信が持てないまま、見送る。


 ――放課後。

 校舎裏のベンチ。

「なあ」

 基樹が口を開く。

「ひよりっぽいやつ見たんだけど」


「どこで」

 恒一が顔を上げる。

「駅前で男と一緒にいた」

 恒一の動きが、ほんの一瞬だけ止まる。


「ああ」

 すぐに理解する。

「それ、多分佐々木先輩だわ」

「……は?」

 思わず声が出る。

「ひより、佐々木先輩のこと好きだし」

 あっさり。

 迷いがない。


「いや、俺その人知らねえけど」

「でも“こういちさん”って言ってたし」

 さらっと続ける。

「……」

 言葉に詰まる。

 確かに。

 “こういち”と言われれば、そうなのかもしれない。

 (いや、なんか違った気が……)

 違和感が残る。


 そのとき。

「――事件の匂いがするね」

 横から声。

 彩音が、いつの間にかベンチの背もたれに肘をついている。

「いつからいた」


「最初から」

 にやりと笑う。

「最近その話、女子の間でも出てたし」

「……は?」

「“白石、最近ちょっと様子変わったよね”って」

 軽く肩をすくめる。


「情報は拾っとくタイプなの、私」

 そのまま、ぐっと基樹に顔を近づける。

「で?」

「容疑者はどんな男だったの?」

「容疑者じゃねえ」

「いいから証言」


「……背は普通」

「うん」

「年上っぽい」

「うんうん」

「で、距離が近かった」

「ほう」

 彩音、満足そうにうなずく。


「クロですね」

「断定すんな」

「じゃあ第二の可能性」

 指を立てる。

「似てるだけの別人」

「それもあると思ってる」


 基樹が頷く。

「第三の可能性」

「双子」

「……」

 一瞬、空気が止まる。

 でも。

「ないな」

 恒一が即答する。

「なんで」

「聞いたことないし」

 あっさり。


「それに」

 少しだけ肩をすくめる。

「話、もう繋がってるから」

「繋がってる?」

「ひより→こういちさん→佐々木先輩」

 指で順に並べる。

「はい、終了」

 完全に納得している。


 彩音が、じっと見る。

「……その自信、どっから来るの」

「普通に考えればそうだろ」

 迷いがない。

 基樹が、少しだけ視線を落とす。

「……俺、間違ってたかもしれないな」

 小さくつぶやく。


 朝比奈は、軽くうなずく。

「まあ、そういうこともあるだろ」

 落ち着いた声。

 でも口元は、ほんの少しだけ緩んでいた。


 彩音が、ふっと笑う。

「ま、いいや」

「続報あったら教えてね、助手くん」

「誰が助手だ」

 軽く笑いがこぼれる。


 恒一は、空を見上げる。

(男、か)

 一瞬だけ考える。

 でも。

(まあ)

 すぐに収まる。

(佐々木先輩なら、そりゃそうだよな)


 速いし。

 強いし。

 部長だし。

(納得だわ)

 引っかかりは、もうない。


(ちゃんと繋がったな)

 小さくうなずく。

(こういうのは)

(整理できるかどうかだからな)

 少しだけ、得意げになる。

(俺、わりと敏感だし)


 風が吹く。

 何も変わらない放課後。

 でも、ひとつだけはっきりしたことがある。


(俺は、ちゃんと見えてるな)


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