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ちゃんと見えてるつもり

 放課後。

 校舎裏のベンチ。


 直樹が缶ジュースを開ける。

「最近どうよ、陸上」

「まあ、きつい」

 素直に答える。


「でも慣れてきた」

「へえ」

 軽くうなずく。

「あと」

 思い出したように言う。

「ひよりが入った」


「白石?」

「ああ」

 頷く。

「俺の練習見てて」

「それで興味持ったらしい」

 さらっと言う。


 一瞬の間。

 直樹が、ゆっくりこちらを見る。

「……お前さ」

「ん?」

「ほんと、自分の恋しか見えてないんだな」

「は?」


 意味がわからない。

「いや、だから」

 ジュースを軽く揺らす。

「それ、どういう意味かわかってる?」


「どういう意味って」

「そのまんまだよ」

 少しだけ呆れた顔。

「“お前を見て”入ったんだろ」

「……そうだけど」

「それ、結構なことだぞ」


「……」

 言葉が詰まる。

「なのに」

「お前の中では“陸上の話”で終わってる」

「……」

 少しだけ、ため息をつく。


「お前のほうが見えてないだろ」

「は?」

 今度は直樹が固まる。

「この前、俺聞いたぞ」

「何を?」


「ひより」

 少しだけ口元が緩む。

「佐々木先輩のこと、好きなんだって」


 瞬間、直樹の動きが止まる。

「……は?」

「だから、」

 軽く肩をすくめる。


「俺、そういうのはちゃんと見てるって」

 自分の中では、きれいに繋がっている。

 むしろ。

(俺のほうが分かってる)

 そんな感覚すらある。

「……お前」

 直樹が、ゆっくり額に手を当てる。

「それ、誰から聞いた」

「たまたま教室で」

「女子の会話」

「“こういちさん”って言ってた」

「……」


 直樹が、深くため息をつく。

「……なるほどな」

「だろ?」

 少しだけ得意げになる。

「俺、わりと敏感な方だし」

 小さくうなずく。


 直樹が、こちらを見る。

 何か言いたそうに。

 でも、言わない。

「……まあいいや」

 ジュースを飲む。


「なんだよ」

「いや」

「そのままでいい」

「は?」

 意味がわからない。

 けど、直樹はそれ以上何も言わない。


(……なんだよそれ)

 少しだけ不満。

 でも。

(まあいい。)

 自分の中では、整理はついている。

 ひよりには、ひよりの恋。

 自分には、自分のやること。

(それでいい)


 空を見上げる。

 変わらない空。

 (ただちゃんと見えてるな)

 そう思っているのは。

 たぶん。

 自分だけだった。


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