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それは違うと思う

 昼休みの教室。


 なんとなく、落ち着かない。

(……なんだろうな)

 理由は、はっきりしている。

 白石ひより。

 最近、やけに目に入る。

 よく会うし。

 話すし。

 距離も、妙に近い。


(まあ)

(気のせいか)

 そういうことにしている。


 ある日の一年教室。

「ねえ、ひより」

 女子の声。

 少し離れたところ。

 ひよりが呼ばれている。

 何気なく、視線を向ける。

「好きな人ってさ」


 一瞬意識が向く。

(……来たな)

 無意識に、耳が拾う。

「誰なの?」

 ストレート。

 ひよりが、少しだけ困ったように笑う。


「えっと……」

 声が小さい。

 でも静かな教室。

 断片だけ、届く。

「……こういち、さん」


 思考が止まる。

(光一、さん?)

 頭の中で、すぐに浮かぶ。

 部長。

 佐々木光一。


(ああ)

 妙に納得する。

(そりゃそうだよな)

 速いし。

 実績あるし。

 頼れるし。


(……そっち行くよな)

 自然な結論。

 それ以上、聞く気はなくなる。

 視線を外す。

 机に頬杖をつく。


(まあ)

 そんなもんだろ。

 不思議と、ショックはない。

 というより。


(最初から違うか)

 自分の立ち位置。

 冷静に考えれば、わかる。

 ただ少しだけ。


(……そっか)

 それだけ。

 胸の奥に、残る。

 会話は続いている。

 ひよりが、何か言いかけて。


 その仕草だけが、目に入る。

(……まあいいか)

 聞かなかったことにする。

 わざわざ踏み込む必要もない。


 それに。

(こういうのは)

(察するのが大事だしな)

 小さく息を吐く。


(俺、わりと敏感な方だと思うし)

 変なところで納得する。

 気づけた、ちゃんと。


(……うん)

 悪くない。

 むしろ。

(気づけてる分、マシだな)

 少しだけ、自分に感心する。


 そして、ふと。

(……俺には)

 思い浮かぶ。

 トラックの端。

 息を整えながら、差し出される。

 スポーツドリンク。


 何でもない顔で。

 でも、ちゃんと見てる。

 真田巴。

(……いるしな)

 小さく、息を吐く。


(なら)

 それでいい。

 ひよりには、ひよりの恋がある。

(応援くらいは、するか)

 勝手に、そう決める。


 窓の外を見る。

 空は、いつも通り。

 何も変わらない。


 ただ。

(光一さん、か)

 その名前だけが。

 静かに残った。


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