なんか会えない話
週末の真田道場。
「……っ」
踏み込み。
「遅い」
すぐに声が飛ぶ。
「腰が浮いておる」
「……はい」
息が上がる。
腕が重い。
足も、もう限界に近い。
それでも。
竹刀を握り直す。
(やるって決めたしな)
もう一度、踏み込む。
打つ。
繰り返す。
時間が過ぎる。
稽古が終わる。
床に手をつく。
(……きつい)
でも。
(ちょっと慣れてきたな)
そう思いながら。
ふと、周りを見る。
(……あれ)
いない。
真田巴。
いつもなら、どこかで見かける。
けど今日は見ない。
「……あの」
近くの人に聞く。
「真田って、今日……」
「ああ、今日は剣道部だな」
「剣道部」
「他もやっとるからの」
「……そうなんですね」
軽く頭を下げる。
(そういう日か)
納得する。
けど。
(……会えないな)
少しだけ、力が抜ける。
次の週、また来る。
同じように稽古して。
終わって周りを見る。
(……いない)
その次も。
また、その次も。
(タイミング、悪いな)
そう思う。
別に、会いに来てるわけじゃない。
(……いや)
少しだけ言い直す。
(会えたら、いいなとは思ってる)
それくらいだ。
そのはずなのに。
少しだけ、物足りない。
(……まあいいか)
首を振る。
やることは変わらない。
強くなるだけだ。
――その夜。
布団に入る。
疲れているはずなのに、妙に目が冴えていた。
(……真田)
弓道場の姿が浮かぶ。
(あれ、反則だろ)
小さく笑う。
そのまま、意識が沈む。
――夢。
白い霧。
「ふぉっふぉっ」
聞き慣れた声。
「久しいのう」
白髪、白ひげの老人。
指でひげをくるくるといじっている。
「……神様か」
「そうじゃそうじゃ」
満足そうにうなずく。
「進展はどうじゃ?」
「まあ、ぼちぼち」
正直に答える。
「ほう」
じっとこちらを見る。
「顔つきが少し変わったの」
「そうか?」
「うむ」
ひげをいじりながら笑う。
「さて」
少しだけ間を置く。
「ひとつ教えてやろう」
「……何を」
神様が、にやりと笑う。
「近いうちに、面白いことが起きるぞ」
「……雑だな」
「大事なのは結果じゃ」
「過程すっ飛ばしたな今」
「ふぉっふぉっ」
満足そうに笑う。
「安心せい」
「わしの助言じゃ」
「だいぶ不安なんだけど」
「大丈夫じゃ」
根拠のない自信。
「役に立つ」
「ほんとかよ」
「本当じゃ」
断言。
疑いしかない。
(まあ)
少しだけ考える。
(何かあるのは確かなのか)
理由はわからない。
でも少しだけ、胸が軽くなる。
「じゃあね」
神様が手を振る。
そのまま、姿が消えていく。
白い空間も。
ゆっくりと薄れていく。
――朝。
目を開ける。
天井。
いつもの部屋。
(……夢、か)
そう思う。
(面白いこと、ね)
ぼんやりと思い出す。
期待、というほどでもない。
少しだけ。
(まあ、悪くないか)
体を起こす。
今日も。
やることは変わらない。
その先に。
本当に何かがあるかどうかは――
まだ、わからない。




