表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/129

好きな人を聞いたら戦国武将だった話

 放課後。グラウンドの西日に照らされたトラックが、赤く光っている。


 その端で。

 俺は、ほんの少しだけ緊張していた。

(聞くか)

 もう知っている。

 “好きな人がいる”ことは。


(でも、誰かは、知らない)

 逃げる理由はない。

(知っとかないと、前に進めない)


「真田」

 声をかける。

 巴が振り向く。

 高く結ばれたポニーテールが、ふわりと揺れる。夕陽を受けて、黒髪の輪郭が赤く縁取られる。


「朝比奈」

 まっすぐな瞳。

 大きく澄んだ目が、こちらを捉える。

 その視線に、少しだけ息を飲む。


「どうしたの?」

 一歩、近づく。

 無駄のない動き。

 立っているだけで、芯の強さが伝わる。

「ちょっと聞きたいことある」

「なに?」


 首を少し傾ける。

 柔らかい仕草。

 息を整える。

「……好きな人いるのは知ってる」

 巴の目が、少しだけ揺れる。

「うん」

 短くうなずく。


「誰?」

 一瞬。

 空気が止まる。

 巴のまつ毛が、わずかに伏せられる。

 そのわずかな間に。

 頭の中で、いくつかの顔が浮かぶ。

(……山下先輩か)

 あの体格。

 あの記録。

 納得はできる。

(……いや)

(部長の佐々木先輩かもしれない)

 落ち着いた雰囲気。

 あの統率力。

 どっちでもおかしくない。

(どっちにしても)

(勝てるわけないじゃん……)

 胃のあたりが、少しだけ重くなる。


 そして。

「えっとね」

 巴が口を開く。

 表情が変わる。頬が、ほんのり赤くなる。

 日焼けした肌の上に、淡く熱が浮かぶ。

 目が、やわらぐ。

 どこか遠くを見るような、優しい光。


「すごく強くて」

 言葉に合わせて、指先が軽く握られる。

(ああ)

 やっぱり。

「絶対に負けなくて」

 視線が少しだけ上を向く。

(山下先輩か……)

 ほぼ確信。

「どんな状況でも折れなくて」

 言葉に、少しだけ熱がこもる。

(佐々木先輩でもおかしくないな……)

 どちらにしても、勝てる気はしない。


 次の一言で。

 全部、ひっくり返った。

「本多忠勝っていうんだけど」

「……は?」

 思考が止まる。

「え?」

 巴が首をかしげる。

 ポニーテールが小さく跳ねる。


「え、今なんて?」

「本多忠勝」

 はっきりと。

「戦国武将の?」

「そう!」

 一気に顔が明るくなる。

 目が強く輝く。


「めっちゃ強いんだよ!生涯無敗って言われててさ!」

 ぐっと前に出る。

 距離が少し縮まる。

 手振りも大きくなる。


「槍もすごいし、鎧もめちゃくちゃかっこよくて!」

 声に熱が乗る。

 さっきまでの静かな雰囲気とは別人みたいだ。

(そっちかよ……)

 肩の力が抜ける。

 さっきまでの重さが、一気に消える。


「え、知らない?」

「いや知ってるけど……」

「めちゃくちゃいいから!調べてみて!」

 身を乗り出す。

 距離がさらに近い。


「あとさ、戦い方がさ――」

 勢いが止まらない。

 目がキラキラしている。

 頬もほんのり赤いまま。

 ひたすら語る。

 その理由が、全部わかる。


(……よかった)

 心の奥で、息を吐く。

(まだ、終わってない)

「だからね」


 最後に。

 少しだけ真剣な顔に戻る。

「強い人、好きなんだよね」

 ブレない。

「……だろうな」

 苦笑する。


 けれど、さっきまでの絶望とは少し違う。

(方向、はっきりしたな)

「ありがと」

「なにが?」

 巴が不思議そうに笑う。

 

 その笑顔。

 真っ直ぐであたたかい。

 それを見て、思う。


(やっぱり)

(この人、いいな)

 恋はまだ、終わっていなかった。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ